なぜ同友会代表幹事の進退判断を先送りしたのか
それと同時に指摘されていたのが新浪氏の脇の甘さだった。
少し前のことだが、新浪氏の政界転身が一部で話題になったことがある。政治に対しての注文も多かった新浪氏だけに「いっそ自ら」の可能性もあるのでは……という観測だった。その時、ある経営者は「政治家になったら必ず女性問題が浮上するからあり得ない」と語っていた。
本稿は新浪氏のプライベートに触れることが目的ではないが、今の配偶者が4人目であり、一昨年には週刊新潮に複数回にわたって女性問題等についてスキャンダラスに報じられたのは事実だ。
今回の騒動にしてもそう。「購入したサプリは信頼する人から勧められたもので、違法性があるという認識は全くない」と新浪氏は語っている。しかし、大麻由来サプリは国内でも購入でき、その大半は安全性が認証されている。それなのにわざわざ海外で購入したことは、新浪氏の落ち度と言わざるを得ないだろう。
もっとも、そうした脇の甘さと、周囲をそれほど気にすることなく、自由気ままに発言・行動するところは表裏一体であり、それが新浪氏の魅力につながるのだから、ある意味致し方ないのかもしれない。
いずれにせよ、この騒動で新浪氏の未来の選択肢ははるかに狭くなったことは間違いない。少なくともBtoC企業、とりわけ飲食に関係する企業は、新浪氏をスカウトすることに躊躇するはずだ。それでも外資系のBtoB企業や、海外展開を本格化させたい企業にとっては新浪氏の手腕は魅力だろう。
その意味で、新浪氏が同友会代表幹事の座を、辞任ではなく自粛したのは当然の選択とも言える。同友会は他の経済団体とは違い、個人で加入する。つまりサントリーHD会長とは違ってステークホルダーは存在しない。
そうであるなら、自らの潔白を主張することこそ最善の道であり、警察に立件されなければ、将来を阻むものは理屈の上ではなくなる。
経済同友会の代表幹事に就任した当時の新浪氏(2023年4月、写真:つのだよしお/アフロ)
日本を代表する“プロ経営者”である新浪氏の新たな道はそこから始まる。ただし、「自分はプロ経営者と呼ばれるのは嫌い」と、かつて筆者のインタビューに答えている。
〈サントリーは佐治(会長)が支えてくれる。僕はそれに応えようとする。佐治のためにと思うから、厳しい交渉もすることができた。ローソンの時も佐々木(幹夫)さんや小島(順彦)さん(いずれも三菱商事元社長)の期待に応えようと仕事をしてきた。本当のプロ経営者は自分のキャリアを高めるために仕事をする。僕はそうではない。その意味で、僕はつくづく日本人だと思います〉(雑誌『経済界』2020年11月号)
一度頓挫した男が次にどんな舞台を選ぶのか──。すんなりとサントリーを去って新天地に転じるよりも、はるかに注目を集めることは間違いない。
写真:ロイター/アフロ





