MBA取得後に奮闘したソデックスの経営

 新浪氏はサントリーHDにとって異色の人材だ。鳥井信治郎氏が葡萄酒を製造販売する鳥井商店を創業したのは1899年のこと。鳥井商店は後に寿屋、サントリーへと社名を変更し現在のサントリーHDにつながるが、新浪氏が2014年に社長に就任するまでは、創業家の人間が歴代トップを務めてきた。

 2代目社長は創業者の次男の佐治敬三氏、3代目は創業者の長男の長男である鳥井信一郎氏、4代目の佐治信忠氏は佐治敬三氏の長男であり、今の社長の鳥井信宏氏は3代目信一郎氏の長男だ。この同族系企業に、初めて一族以外の社長となったのが新浪氏だった。

 新浪氏は1959年生まれ。横浜市出身で慶應大学経済学部を卒業し三菱商事に入社した。在職中にハーバードビジネススクールでMBAを取得したエリート中のエリートだ。

 ただし、父親は横浜港の荷役会社を経営しており、新浪氏自身も幼い頃から荒くれ男たちと接し、子ども時代は「クソガキ」と呼ばれていたというから、もともと単なるエリートサラリーマンで終わる器ではなかったのだろう。

 転機となったのが、MBAを取得して帰国した後に就任したソデックス社長だ。ソデックスは病院の給食事業などを行う三菱商事の社内ベンチャー。実は新浪氏が帰国した直後、会社は国内冷凍食品の営業を命じたという。その分野が未経験の新浪氏に下積み的な仕事から始めろ、ということだった。

「これではMBAを取得した意味がない」と考えた新浪氏は、自ら嘆願書を出して起業を志願し、ソデックスを買収して社長に就いた。

 だが、ソデックスの仕事はきつく、三菱商事内にも事業に明るい人材はいなかった。そのため、当初は「後悔した」という新浪氏だが、自分で調べ、考えて行動し、売り上げを10倍近く伸ばした。この経験を通じて新浪氏は経営者としての「覚悟」ができたと後に語っている。