ビーム社に乗り込み「やってみなはれ」精神を移植

 そしてローソン卒業後に選んだのがサントリーHDだった。2014年8月に顧問となり、10月に社長に就任した。それまでの社長で、新浪氏就任とともに会長となった佐治信忠氏の強い誘いに応じた結果だった。

創業家以外で初のサントリー社長に就任した新浪氏(2014年、写真:ロイター/アフロ)

 この年の5月、サントリーHDはバーボンウイスキー「ジムビーム」などを販売するビーム社(現サントリーグローバルスピリッツ=SGS)を1兆6500億円で買収した。それまでにも仏オランジーナなど海外企業を買収したことがあるが、ビーム社は規模がまるで異なる。この新たなるグループ会社をどう運営するか、佐治氏が悩んだ末に白羽の矢を立てたのが新浪氏だった。

 その後の成功については、今回の騒動でも触れられているが、新浪氏は自らビーム社に乗り込み、同社CEOを動かし、「やってみなはれ」に象徴されるサントリーのチャレンジ精神を移植していく。

 しかも幹部社員を送り込むのではなく、30~40代社員を送り込むとともに、ビーム社の中堅社員をサントリー社内にある「サントリー大学」で研修させ、自社精神を叩きこんだうえで送り返していった。そうした施策が奏功してか、日本企業の海外M&Aとしては例を見ないほど成功し、新浪氏の経営者としての名声はさらに高まった。

 そして昨年12月、サントリーHDは新浪氏が会長となり(佐治氏と2人会長)、鳥井信宏氏が社長となる人事を発表した(2025年3月25日付)。この大政奉還人事は既定路線であり驚きはなかったが、誰もが思ったのが「新浪さん、次はどうするの?」ということだった。

 この社長人事発表時点で新浪氏は65歳。若くはないが、まだ引退する年ではない。ローソンやサントリーHDでの成功、そして経済同友会代表幹事としての歯に衣着せない発言など、新浪氏は今の日本経済界を代表する論客でありスター経営者だった。次の舞台としてどこを選ぶのかが注目されていた。