日本の火葬率が高いのは衛生上の問題ではない

 問題は、土葬忌避を説明するために「感染症が広がる」「地下水が汚れる」といったあまり根拠のない話や、「土葬は前時代的で、日本人の埋葬法ではない」などという認識の過ちを重ねてしまっている点である。

 土葬が墓埋法で禁止されていない理由は、別にムスリムのためではない。憲法で保障する「信教の自由」(20条)や「基本的人権の尊重」(11条)があるからだ。現代の日本人の中にも、さまざまな理由で土葬を望むケースがある。埋葬法を限定することは、国民の宗教的感情に著しく反することになる。

 まず、宗教と土葬の関係性について説明しよう。ムスリムの場合、コーランで「死後の復活」が約束されている。復活のためには肉体が必要となる。そのため、ムスリムの埋葬は、絶対的に土葬だ。キリスト教も同様に、死後の復活を認めており、原則的には土葬でなければならない。

 キリスト教の場合、近年はプロテスタントを中心に火葬を容認する傾向にある。欧米の教会ではコロナ禍の時期に、衛生に対する意識が高まり、火葬の割合が増えた。だが、筆者がフランス・パリの葬儀業者に最近の状況を尋ねたところ、最近では土葬へと回帰しているという。

横浜の外人墓地も土葬

 各国の火葬率は、ややデータが古い(2021年)が、米国56%、イギリス78%、ドイツ72%、フランス39%、イタリア30%、ロシア29%、韓国90%などとなっている(出所:イギリス火葬協会『ファロス』)。キリスト教国を中心に、土葬が根強く残る。

 日本の場合は、火葬率99.9%である。他国に比べて圧倒的に火葬が多い。これは、国土面積が狭いことや、感染症蔓延などの衛生上の問題で火葬率が上がっていったのではない。日本人の信教と習俗、そしてそれに伴う火葬場の整備に由来している。

 さらに付け加えれば、伝統的な土葬集落では人口減少にあえぎ、土葬したくても、野辺送りや墓穴を掘る人手がないからである。

 改めて、わが国の宗教面から話をすると、自分が最期を迎えた際、どの宗教で葬儀をするかで信教が決まるということを考えれば、おおかたの日本人の信教は仏教である。そして、仏教の葬送法は火葬である。これは、古代インドにおける釈迦がその死後、火葬されたことに依拠している。

 他方、村井知事が言うように、「神」を祀る日本の神道の葬送法は土葬である。キリスト教やイスラム教同様に、死後の復活を願うからである。

 本来、日本は仏教と神道が習合した混淆宗教の国であった。さらに儒教も混じっていた。儒教の埋葬法は土葬である。こうしたわが国の混淆宗教の歴史が、埋葬の問題をややこしくしている。