現場の苦肉の策と「歩留まり」の壁
深刻なチップ不足は、AI開発の現場に混乱をもたらしている。AI新興企業として注目される深度求索(ディープシーク)は、チップ不足を理由に最新モデルのリリース延期を余儀なくされた。
現場では、苦肉の策ともいえる打開策が講じられている。
一つは、ファーウェイなどが取る手法で、性能の劣るチップを数千個「バンドル化(結束)」し、AIモデルの訓練に必要な計算能力を確保する巨大システムを構築するというものだ。
しかし、この手法は極めて電力効率が悪く(Power-hungry)、一部の地方政府がデータセンターの電力料金に補助金を出すという異例の事態も伝えられている。
もう一つの打開策は、エヌビディアの高性能チップ「Blackwell(ブラックウェル)」などの密輸や、海外のクラウドサーバーにリモートアクセスして計算能力を確保する手法だ。
中国が国産化を急ぐ上で、根本的な技術の壁も立ちはだかる。
米国は最先端EUV(極端紫外線)露光技術の対中輸出を禁じているため、SMICなどは旧式の製造技術に依存しなければならない。
米金融大手モルガン・スタンレーが9月に公表した分析結果では、SMICの現行技術でファーウェイの先端チップ「910C」を製造した場合、良品率(歩留まり)はわずか5%(100個中95個が不良品)になる可能性がある。
米シンクタンクのインスティテュート・フォー・プログレス(IFP)のテクノロジー・フェローであり、バイデン前米政権で輸出規制に携わったサイフ・カーン氏は、中国の生産量を「5倍にしても国内市場を満足させるには程遠い」と分析。米国の規制が効果を上げていると指摘する。