欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長(中央、11月4日撮影、写真:AP/アフロ)
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 欧州連合(EU)の欧州委員会が11月中旬、世界初の包括的なAI規制とされる「AI法」の一部施行を延期し、実質的に内容を緩和する方針を提案した。2024年8月の同法発効から1年余りでの路線修正となる。

 背景には、トランプ米政権からの政治的圧力と、規制がイノベーションを阻害するとの米欧有力企業からの強い反発がある。

 欧州委員会は、デジタル分野の規制簡素化策をまとめた「デジタル・オムニバス」案を提示した。

 この中で、AI法の施行に関し、企業が規制に対応するための猶予期間を複数導入することを打ち出した。

主要規則の罰則適用を延期

 提案の柱となるのは、2026年8月に本格施行が予定されていた主要規則の罰則適用を延期することだ。

 健康や安全に「深刻なリスク」をもたらす「高リスクAI」に関する規則違反に対し、1年間の「猶予期間(グレース・ピリオド)」を設けるほか、AIが生成したコンテンツであることを明示する「電子透かし」の義務など、透明性に関する新規則についても、違反に対する罰金の適用を2027年8月まで1年間延期する。

 これにより、発効日(2024年8月)以前から既に市場に出回っている生成AIシステムを提供する企業などは、新規則へ適応するための時間を実質的に稼ぐことが可能となる。

 欧州委は「市場を混乱させず、合理的な期間内に企業が慣行を適応させるため」と説明しており、企業のコンプライアンス(法令順守)負担を軽減する狙いが明確だと、英フィナンシャル・タイムズ(FT)などは報じている。