「エプスタイン事件」が追い込む
11月後半に入り、トランプ氏の退潮が鮮明になる出来事が連邦議会で起きました。与党共和党から保守層が離反したのです。特に与野党の勢力が拮抗する下院では、共和党議員のわずかな造反が法案の行方を左右します。
詳しく見てみましょう。
(図表:フロントラインプレス作成)
435議席ある下院の現有勢力は、共和党219に対し民主党213(欠員3)。共和党は、過半数の218をわずかに1議席だけ上回っている状態です。
そうしたなかで問題となったのは「エプスタイン事件」に関係する動きです。トランプ氏の旧友で、数々の少女らに対する性的な人身売買で起訴され、のちに自殺した富豪ジェフリー・エプスタイン氏に関する文書の開示を司法省に求める法案の扱いでした。トランプ氏は開示を拒んでいましたが、1人の共和党議員が開示に向けた採決を求める請願を準備。これに3人の共和党女性議員が賛同し、民主党議員も加わって開示要求法案が可決されたのです。
開示要求法案そのものには強制力がないとされ、トランプ氏も開示容認に転じたため、法案は427対1という圧倒的な賛成多数となりました。それでも、共和党の上院議員が「反トランプ」に動いた意味は小さくありません。
3人の共和党女性議員はトランプ氏の「アメリカを再び偉大に(MAGA)」の運動を支持する保守系議員たちです。中でも南部ジョージア州選出のマジョーリー・テーラー・グリーン議員は、民主党のバイデン氏が当選した2020年大統領選でトランプ氏の勝利を主張し続けるなど、MAGAの代表格でした。
そのグリーン氏がエプスタイン文書に関しては、被害女性を擁護する立場を鮮明にし、トランプ氏に反旗を翻したのです。グリーン氏はこのところ、パレスチナ自治区ガザに対するイスラエルの攻撃を「ジェノサイド(大量虐殺)」と呼んだり、オバマ元大統領が導入した医療保険制度(オバマケア)継続を支持したりするなど、トランプ氏との路線対立が目立っていました。
トランプ氏もグリーン氏批判を展開し、両者の対立は決定的に。グリーン氏はエプスタイン文書の採決の後、2026年1月で議員辞職すると表明しました。
グリーン氏の行動は他の共和党議員に対し、トランプ氏の威光に頼るのか、有権者の声に耳を傾けるのかの選択を迫るものとなりました。グリーン氏の辞職が、トランプ政権の大きな曲がり角になるとの見方も浮上しています。