関税・外交もトランプ氏の思い通りにならず
トランプ氏の勢い低下は数字にも表れています。
米紙ワシントンポストなどが10月下旬に実施した世論調査によると、トランプ政権の支持率は前月比2ポイント減の41%、不支持率は3ポイント増の59%でした。第2次政権発足以来、最悪の結果です。回答者の半数以上が「政府職員の解雇」「民主党が強い都市への民兵派遣」「大学運営への介入」などの面でトランプ氏が大統領権限を濫用していると受け止めています。
もっとも、支持率低下や選挙での苦戦の大きな要因は、経済政策にあると言えるでしょう。
ことし10月時点で米国の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で3.1%と高い水準にあります。トランプ氏が春から夏にかけて導入した高関税政策が物価高を招き、国民生活を直撃しているのです。自らを「タリフマン(関税の男)」と呼んで、関税政策に自信を示してきたトランプ氏ですが、11月14日にはコーヒー豆やバナナなど、輸入農産物への関税を引き下げる大統領令に署名するなど政策転換を余儀なくされています。
トランプ政権が進めるAIの技術開発については、「雇用機会が減る」との懸念が膨らんでいるほか、子どもたちが操作に没頭するあまり自殺に至るケースが目立つとして、反発が広がっています。
外交・移民問題でも軋轢が出始めました。
MAGA派の間には、ウクライナ戦争、ガザ紛争への対応や6月のイラン核施設攻撃などをめぐって、「外国の問題に深入りしすぎている」との批判もあります。麻薬密輸防止を名目とした南米ベネズエラへの軍事圧力もエスカレートする様相を見せています。
2期目の就任以来取り組んできた不法移民の送還措置についても、家族が離ればなれになる人道的理由のほかに、費用がかかりすぎるとして反対する意見もあります。トランプ政権の看板政策に対し、ことごとく疑問が投げかけられているのです。
トランプ氏は2028年の大統領選で憲法の規定を超えて3期目を目指すことを諦めていないとの見方があります。実際にはその実現は困難とみられていますが、3期目への布石という意味からも、2026年の中間選挙で勝利することは最大の政治課題となります。
支持率の低下や保守系の支持層の離反が続けば、3選どころか残り任期での内外の課題解決もおぼつかなくなります。2期目に入った米大統領は、影響力が低下する「レームダック」化が避けられないのが常ですが、トランプ氏の政策が世界各国に与える影響は大きいだけに、その動向からは目が離せません。
西村 卓也(にしむら・たくや)
フリーランス記者。札幌市出身。早稲田大学卒業後、北海道新聞社へ。首相官邸キャップ、米ワシントン支局長、論説主幹などを歴任し、2023年からフリー。日本外国特派員協会会員。ワシントンの日本関連リサーチセンター“Asia Policy Point”シニアフェロー。「日本のいま」を世界に紹介するニュース&コメンタリー「J Update」(英文)を更新中。
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「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。
