高市首相はトラス化の道を歩み始めた(写真:つのだよしお/アフロ)
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(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)

 高市早苗政権が打ち出した総額21.3兆円もの大型の補正予算が波紋を広げている。リーマンショックやコロナショックのときでさえ補正予算は10兆円台だったことからも、今回の大型の補正予算の意味合いが問われている。機関投資家は内外を問わずこの巨額の財政出動に対し警鐘を鳴らしているが、政権関係者にはどう聞こえているのか。

 責任ある財政拡張を掲げる高市政権だが、主な財源は国債の発行に頼るようだ。巨額の国債の発行を前提とした財政拡張に対して機関投資家は危機感を募らせており、日本国債は“投げ売り”状態に陥っている。首相が就任して以降、指標である10年国債の流通利回りは1.8%台まで上昇。40年債は3.8%をうかがう勢いとなっている。

 債券市場がガタついたことで、株式市場や通貨市場も混乱しており、いわゆる“トリプル安”が生じている。これは典型的な“日本売り”であり、投資家が高市政権の財政運営に対して大きな懸念を持っていることは明白だ。

 ここでどうしても意識されるのが、同様に巨額の財政拡張を志向して失敗した英国のリズ・トラス元首相である。

 ハト派の経済運営観を持つリズ・トラス元首相は、物価高対策として巨額の減税方針を打ち立てた。しかし代替財源を示さなかったことから、金融市場は徐々に“英国売り”の様相を強めて、深刻な“トリプル安”が生じた。結局、トラス元首相は減税計画の撤回のみならず、レタスの鮮度に劣る歴史的な速さでの辞任を余儀なくされた。

 高市首相の経済運営観はハト派であるため、大規模な財政拡張に踏み切った場合、それが国債市場のクラッシュを招き、延いてはトリプル安につながる展開は、当初から懸念されていた。首相就任後には現実的な路線に回帰し、控えめな財政出動にとどめるという期待もあっただけに、大型の補正予算の発表はネガティブな材料となっている。

 意外に知られていないことだが、トリプル安、つまり債券・通貨・株式のいずれもが売られるとき、最も問題となるのが債券である。ここでいう債券とは国債のことだが、国債市場は金融市場の中核を成している。ここが混乱すれば、本格的な金融危機に転じるため、景気には強い下押し圧力がかかり、国民の生活は極めて苦しくなる。

 こうした日本版トラスショックに陥った場合、何が起きるのだろうか。英国の経験になぞらえれば、以下の対応がなされるだろう。