公共性高め「モビリティ広告」への脱皮を模索

 規制の動きが強まるなか、アドトラックを運営する業者側も事業の近代化に向けた取り組みを始めています。

 その大きな流れは、使い方次第ではテレビCMよりも訴求力があるとされるアドトラックの潜在能力に着目し、「モビリティ広告(移動体広告)」として再定義するという考え方です。

 事業会社ohpner(オープナー)代表取締役の土井健氏はAdverTimes.のインタビューで「ポテンシャルがありながら、この業界は30年近く変わっていません。媒体資料や出稿後のレポートも存在せず、コンプライアンス意識も低い。また『ナイトワーク』の広告イメージが強いため、大手企業などが出稿をためらう傾向にありました」と指摘。GPSによる走行管理と人流データを活用したレポーティングなどを徹底するほか、法令を遵守し、ナショナルクライアントも出稿できるような広告媒体にならなければならない、としています。

 市場調査のデジタル・インファクト社などがこの10月に公表した「モビリティ広告(旧アドトラック)市場」に関する調査によると、2024年に25億円だった市場規模は2025年に15億円へと減少しました。東京都による規制強化などが原因とみられています。

 しかし、今後は着実に拡大が続くと見られています。広告主が従来の風俗関係から各分野へと拡大し、韓国コスメ、外資系ブランド、美容医療、BtoB分野などに浸透。SNSとの連動など技術革新も進んでおり、上場企業や外資系企業による利用も始まっています。こうした事情を背景として、2026年の市場は回復基調となり、前年比23%増の23億円に達すると見込まれています。

 さらに、計測指標の標準化、ブランドセーフティの確立、走行ルートの最適化といった事業の近代化・健全化によって市場は順調に成長。2030年には75億円規模になると予測されています。トラックの車体を飾り、大音声で街を走り回るだけの存在から大きく脱皮するというわけです。

 モビリティ広告だけでなく、「街のインフラ」としての機能を持たせようという発想での事業展開も始まっています。例えば、WE TRUCK社(東京)は最近、新たな機能を持たせたトラックを「モビリティインパクトプラットフォーム」と呼んで全国展開する方針を打ち出しました。街の緊急情報や地域情報をダイレクトに届けるメディアとして、この車両を運用しようという考え方です。

 映画やスポーツを上映するパブリック・ビューイング用の車両として活用したり、AIカメラによる防犯サポートや災害時の電源供給用に利用したり。企業の広告媒体だけでなく、コミュニティの核として公共性の高い活用も模索しようという構想です。

 迷惑な存在ではなく、街と調和し、人々に歓迎・必要とされる存在へ――。そうした事業者の狙いは、どんなかたちで実を結ぶのでしょうか。

フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。