ドローンを使って河川の被災状況を調べる国交省の緊急災害対策派遣隊の調査員=2024年9月、石川県能登町(写真:共同通信社)
災害時の情報収集や要救助者の捜索活動、物資輸送などにドローンを活用しようという動きが、急速に広まっています。総務省消防庁は発災時に上空からドローンで緊急避難を呼び掛ける体制の整備に乗り出し、各地の消防は災害時に活動するドローン部隊を続々と整備中。民間団体では、防災・減災に特化した資格「ドローン減災士」などを創設しているほか、操縦を担う人材育成も活発になってきました。ドローンによる防災・減災の最前線をやさしく解説します。
ドローンで上空から緊急情報を伝達
産業用ドローンの研究開発や実証実験を行う施設「板橋ドローンフィールド」(東京都板橋区)で今年9月、総務省消防庁の「災害情報伝達手段としてのドローンの活用に関する検討会」の初会合が開かれました。出席したのは、大学の研究者やドローン運用の専門家、自治体の危機管理部門の責任者ら約20人。会合の目的は、避難情報を聞き取りにくいエリアにいる住民らに対し、「津波警報」などの緊急情報を空から伝える仕組みを整えることです。
沿岸部や山間部ではこれまで、緊急情報は主に屋外スピーカーを用いた「防災行政無線」で伝達されてきました。しかし、情報伝達の空白域を無くすためには、膨大な数の屋外スピーカーを設置し、保守・管理する必要があります。財政基盤の弱い地方の自治体にとって、軽い負担ではありません。そうした欠点を補おうと、スピーカーを搭載したドローンを用いた情報伝達の実現可能性を探ることにしたのです。
検討会では、出席した委員から「スピーカーに加えて津波フラッグをドローンにつけて一緒に伝達することも考えられる。軽量な薄いシート状のデジタルサイネージをドローンに取り付けて、『津波逃げろ』のような単純明快なメッセージを表示させつつ、音でも情報を伝える」ことなども検討課題として提示されました。
ドローンを使って上空から緊急情報を伝えるシステムは、仙台市と千葉県一宮町で先行的に始まっています。仙台市の導入は2022年10月から。カメラとスピーカーを備えたドローン2台を沿岸の市有地に配備。大きな地震が発生し、全国瞬時警報システム(Jアラート)を受信すると、ドローンは全自動で飛び始めます。そして上空から「大津波警報です。河口からただちに避難してください」「巨大な津波の恐れ。避難を指示します」といった警告を発し続けます。総事業費は約1億7千万円で、国が4割強を補助しました。
東北では、2011年の東日本大震災の際、津波からの避難を呼び掛けるため、消防団員らが沿岸部に向かい、そのまま犠牲になるケースが相次ぎました。そうした犠牲を二度と起こさないためにも、ドローンによる情報伝達は有効な手段となりそう。消防庁の検討会は実証実験も繰り返しながら、2026年2月ごろに報告書をまとめ、各自治体によるスピーカー・ドローンの導入を後押しすることにしています。