物価が心配だ

 だからといって、様子を見ていればよいということでもない。

 政府にとっても、いまのウォン安が「深刻な水準」であることに変わりはない。何よりも頭が痛いのが「物価」への悪影響だ。

 ここ数日、韓国メディアは「ウォン安が庶民経済にも打撃となっている」と様々な例を報じている。

「有名店のカルグクスの価格が1万1000ウォンから来週、1万2000ウォンに値上げされる」

「ウォン安で輸入牛の価格と、韓牛の価格が近づいてきた」

 こんなニュースに接するまでもなく、スーパーに行けば物価上昇を毎日実感する。

 韓国政府によると、10月の消費者物価上昇率は2.4%だった。9月(2.1%)に次いで2%台だった。

 この数字だけ見れば落ち着いているように見えるが、生活に直結する食品の物価は庶民の頭痛のタネだ。

 特に、加工食品(3.5%上昇)、パン(6.6%上昇)、コーヒー(14.7%上昇)など輸入依存度が高い製品群での価格上昇が目立った。

 コメ(21.3%上昇)のほか、野菜や果物もかなりの幅で上昇している。ガソリン代も目立って上がってきた。

 その後のウォン安で、さらに上昇することは確実なのだ。

「ウォン安は今の政権の失政だ」

 野党からこんな批判も上がっており、政府も真剣に受け止めている。

 経済副首相兼企画財政相は、最近、サムスン電子、SKハイニックス、現代自動車、起亜など主力輸出企業の幹部を集め、ウォン安対策への協力を要請した。

 さらに11月24日には企画財政部、保健福祉部、韓国銀行、国民年金の4者協議会の発足を決めた。巨額の海外株式投資をする国民年金にも「ウォン安対策」への協力を求める。

 とはいえ、企業による海外投資や個人の海外株投資を規制するわけにもいかない。国民年金の海外株式投資を一気に絞り込むのも無理だ。

 米韓関税交渉で、韓国側は毎年200億ドルの対米投資を約束したばかりだ。

 米韓での金利格差がすぐに解消する兆しもなく、ウォン安基調が急に変わるとの見方もあまりない。

 以前のような「パニック」はないが、急速なウォン安は韓国の産業界、消費者、さらに政府にとっても頭の痛い難題だ。

 1ドル=1500ウォンのラインはすぐそこに来ている。