歴史的な水準

 それにしても1ドル=1500ウォンというのは韓国にとっては「歴史的水準」である。

 韓国にとっては「悪夢」ともいえるころにこの水準に達したことがある。韓国が東南アジア初の通貨経済危機(IMF危機)の直撃を受けた1997年秋から1998年初めにかけてだ。

 このころの対ドルレートを振り返ってみよう。

 1997年11月19日には1ドル=1012ウォンだった。

 だが、中堅財閥や金融機関の経営危機が相次いで表面化すると、ウォンの急速な下落が始まる。

 資金の急速な流出を受けて韓国政府はIMFに緊急支援を要請し、12月3日に覚書を交わした。

 12月9日には1ドル=1332ウォン、翌日の10日1423ウォンとなり、11日には1563ウォン、12日1719ウォンになった。

 こうなるともう暴落だ。

 年明けの1998年1月10日には1805ウォンまで下がった。結局、3月半ばに1400ウォン台になるまで1500ウォンを超えるウォン安が続いた。

 1ドル=1500ウォンの水準となるとこの時以来のことなのだ。

動揺はなくなったが・・・

 韓国経済は輸出依存度が高いから、「適度なウォン安」は経済にはプラスの面が多い。

 韓国取引所によると、上場企業639社の7~9月期の営業利益の合計は179兆5678億ウォンで前年同期比15%増だった。

 AI向け半導体が絶好調のSKハイニックスの営業利益が28兆ウォンに達し、前年同期比82%増となったほか、造船、防衛関連企業などが「ウォン安」の追い風も向けて好調だったためだ。

 最近のウォン安が「適度な水準」かどうかは議論が分かれるが、輸出企業の業績にプラスである反面、企業の経営破綻とウォンの暴落のスパイラルに陥った「IMFのトラウマ」があるから、急速なウォン安に対しては金融界、産業界では警戒感がいまでも残っている。

 かつては1ドル=1200~1300ウォンくらいの水準になっても、動揺が広がった。いまも心配ではあるが、以前のような「パニック」とは程遠い。

 韓国経済の体質が変わったからだ。

 韓国の純対外金融資産がプラスになったのは2014年でこの時の額は127億ドルだった。だが、2025年6月末時点でその規模は100倍の1兆304億ドルになった。

 外貨準備高もIMF危機が起きた当時の485億ドルから今は4288億ドルで世界8位になった。