その日のネタやシャリの状態だけでなく、お客さんとの会話を通じて得られる細かな好みやお客さんの体調などを考慮した「握り」の技はAIが最も苦手とするところだ(takedahrsによるPixabayからの画像)

モラベックのパラドックス

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 AIエージェントが急速に進化し、自律的な業務遂行が可能になりつつある今、現場の経営者や技術者の間で再燃している議論があります。

 それは、人間が何気なく完璧にこなしてしまうものほど、実はAIエージェントには向かない、という逆説です。

 高度な計算や論理的推論はAIにとって容易ですが、人間にとって簡単な「知覚」や「運動」こそがAIには極めて難しいのです。

 AI研究の世界では「モラベックのパラドックス」として知られるこの現象を、私はビジネスの現場において「精密さの罠」と呼んでいます。

 AIがどれだけ優秀になろうとも、人間の技が持つ「独特のゆらぎ」を再現できない場面に繰り返し遭遇してきました。 

 今回は、2025年の現在地から見えてきた課題と展望について、いくつかの実例を交えながらご紹介したいと思います。

 AIが得意とする領域は明快です。

 大量のデータから最適解を素早く導く処理や、疲れを知らずにミスなく反復を続ける作業です。

 しかし、ここに盲点があります。

 人間が「完璧」にこなす作業とは、単にデジタル的に「正確」であることとは異なるのです。