報酬アップで公共サービスが増える!ブラジルのエビデンスが示すメカニズム

 イタリアと並んで、ブラジルの地方議会を分析した研究も示唆的である。ブラジルの憲法改正によって導入された「人口規模ごとに議員報酬の上限が決まる仕組み」を利用した。

 人口が一定のラインを超えると、その自治体の議員に支払える報酬の上限が一気に上がる一方で、それ以外の条件はほとんど変わらない。ここでも、ほぼ同じ規模・条件の自治体なのに「制度上の理由だけで議員報酬に差がつく」という状況が生まれる。

 この自然実験を使って、報酬が高くなった自治体とそうでない自治体を比較すると、いくつかの重要な違いが明らかになった。

 第1に、報酬が引き上げられた自治体では、地方議会議員が提出する法案の数が増え、議会活動が明らかに活発になっていた。

 第2に、教育や保健、インフラといった住民向けの公共サービスへの支出が増え、実際に提供される公共財の量も改善していた。

 第3に、立候補する人の数そのものが増え、当選者の学歴や資産水準も高まっていた。

 つまり、給与の引き上げは、「議員のやる気」を高めるだけでなく、「そもそも誰が政治に参入するか」という入り口の部分にも強く働き、結果として政策成果と公共サービスの質を押し上げていたのである。

 このブラジルの例は、議員報酬を引き上げることで、議会活動が活性化し、公共サービスが増え、政治家の質も高まるという「三重の効果」が現実に起こりうることを示している。

 日本においても、地方議会を含めた報酬水準の見直しは、単に政治家の懐を温める話ではなく、住民に届く行政サービスの質を左右する制度改革である、という視点が欠かせない。