「台湾問題」めぐる解釈は?

 日中共同声明によって国交正常化を果たした後、日本の対中外交はこの1972年の日中共同声明を基本線として展開されてきました。

 1998年に行われた江沢民・国家主席の訪日では、日中共同宣言が発出され、そのなかで「日本側は、日本が日中共同声明の中で表明した台湾問題に関する立場を引き続き遵守し、改めて中国は一つであるとの認識」を表明しました。また、「戦略的互恵関係」がうたわれた2008年の日中共同声明でも「台湾問題に関し、日本側は、日中共同声明において表明した立場を引き続き堅持する旨改めて表明した」との文言が盛り込まれています。

 日本政府は国会でも同様の考えを繰り返してきました。

 日中共同声明が出されて間もない1972年11月の衆院予算委員会では、大平正芳外相が「中華人民共和国政府と台湾との間の対立の問題は、基本的には中国の国内問題である」と言及しています。

 1997年12月の衆院本会議では橋本龍太郎首相が「(日本は)台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であるとの中華人民共和国政府の立場を十分理解し尊重する旨を表明いたしております。このような基本的立場は不変であり、いわゆる『二つの中国』、あるいは台湾独立を支持する考えはございません」と表明。日本は「一つの中国」を堅持すると強調しました。

 さらに、2005年3月の衆院安保委員会では、町村信孝外相が中国による台湾統一問題について、「(日本は)武力行使には反対である、また同時に、台湾独立も支持しないという原則に基づいている」との立場を鮮明にしました。

 ただ、共同声明の第3項は、読み解きに注意が必要かもしれません。

 第3項は「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明」し、日本はその中国の立場を「十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」としています。ポツダム宣言では、日本が中国(中華民国)から奪った台湾と澎湖諸島を第2次世界大戦の終結後、中国に返還することがうたわれています。

 これについて、日中共同声明の起案者とされ、国交正常化交渉に参加していた外務省条約課長の栗山尚一氏はのちに、同省OB会の会報に寄稿し、共同声明の第3項は「中国すなわち中華人民共和国への台湾の返還を認めるとする立場を意味する」ものだと記しました。しかし、日本政府はこれまで、中華人民共和国が台湾の領有権を持っていると公式に認めたことはありません。

 日本はサンフランシスコ講和条約で台湾に関するすべての権利を放棄しており、「台湾の領土的な位置付けに関して独自の認定を行う立場にない」(2005年の衆院質問主意書に対する小泉純一郎内閣の答弁書ほか)と繰り返しています。

フロントラインプレス
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