背景に「NVIDIA依存」脱却と資金調達
複雑な取引が常態化する背景には、オープンAIを中心としたAI開発企業による、天文学的な規模の計算資源確保の動きがある。
オープンAIは、エヌビディアへの過度な依存から脱却するため、AMDや米ブロードコムとの提携による半導体供給網の多角化を急ピッチで進めてきた経緯がある。
一方、AI開発企業側には、巨額のインフラ投資資金をいかに調達するかという切実な課題もある。
特にオープンAIは依然として赤字経営が続くとされる。半導体供給元からの直接投資は、開発基盤を強化する上で重要な資金調達の手段となる。
資金供給側にとっては、将来の巨大な需要(売り上げ)を確実に確保し、顧客を囲い込む「ウィンウィン」の戦略になる。
AIという変革的技術のインフラを迅速に構築するため、業界全体が相互に依存し合ってリスクを取っている構図だ。
ドットコム時代の教訓と「二重の打撃」
しかし、WSJは、この構造がドットコムバブル崩壊の一因となった「ベンダーファイナンス(Vendor-Finance)」に類似すると警鐘を鳴らす。
1990年代後半、通信機器メーカーの米ルーセント・テクノロジーズは、新興通信事業者に巨額の融資を行い、自社製品を買わせることで売り上げを急増させた。
だが、融資先の顧客が倒産すると、巨額の不良債権を抱え、自らも経営危機に陥った。
今回のAI投資は、特定の購入資金を融資するものではないため厳密な意味のベンダーファイナンスとは異なる。
だが、AIインフラへの支出意欲が何らかの理由で減退した場合、資金供給元の企業は、「売上高の減少」と「顧客企業への投資価値の下落」という二重の打撃を受けるリスクを抱える。
AIエコシステム(経済圏)は現在、この循環によって拡大を続けている。
「上昇局面では好循環となり得るものの、下降局面では悪循環となり得る。うまくいかなくなるその時まで、取引は問題なく機能し続ける」とWSJの記事は結んでいる。
AI開発競争は、技術の進化だけでなく、それを支える経済合理性と持続可能性という、より大きな課題に直面している。
この循環構造が技術革新を支える「好循環」であり続けるか、あるいは過剰投資の「悪循環」に陥るのか。
その分岐点は、AIが生み出す価値が、この天文学的な投資コストと膨大な電力消費を上回れるかどうかにかかっている。
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