複雑な税制は納税者の負担になるばかり(写真:umaruchan4678/Shutterstock.com)
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自民党と国民民主党を中心に、所得税の実質非課税枠「年収の壁」をめぐる協議が始まった。少数与党である自民党にとって野党の協力は欠かせず、年収の壁178万円への引き上げを求める国民民主党に対して、高市早苗首相は「国家、国民のために互いに関所を乗り越えていかなければいけない」と歩み寄りの姿勢を見せている。とはいえ、協議に先駆けて政府の税制調査会が開いた会合では出席した有識者から「恣意的な調整を回避することが重要であり、機械的な制度を法定すべき」といった意見も出された。まさに年末調整の現場では、今年から導入された新制度の申告に戸惑いの声も聞かれる。

(森田 聡子:フリーライター・編集者)

控除拡大の恩恵はあるが…

「こんなの、分かんねぇよ!」

 大学生の子供を持つ50代の男性会社員は、今年の年末調整の書類を前に舌打ちした。例年以上に記入欄が増えて面倒になったこともあるが、中でも“鬼門”は今年から新設された「特定親族特別控除」だったという。

「特定親族特別控除」とは何か。理解する前提を含めて説明すると以下のようになる。

 現役世代の手取りを増やす減税策として、今年から所得税の基礎控除が従来の48万円から58万~95万円(収入によって異なる、対象は給与収入2545万円以下)に変更されている。さらにアルバイトやパートを含めた給与所得者に適用される給与所得控除※1の最低保証額が55万円から65万円にアップし、所得税の課税最低限はこれまでの103万円(基礎控除48万円+給与所得控除55万円)から160万円(基礎控除95万円+給与所得控除65万円)へと大幅に引き上げられた。

※1:給与所得を得ている人のための控除で、“みなし経費”として収入に応じて一定額が所得から差し引かれる。

 そうした中、大学生の子供のバイト収入が増えることで子供への控除が減って、親の所得税の負担が重くなるという残念な事態を招かないよう、19歳以上23歳未満の子供の年収が扶養控除の上限123万円を超えても150万円までなら親の所得から63万円を差し引ける新しい制度ができた。これが特定親族特別控除だ。

「150万円までなら」と書いたが、150万円を超えたら親への控除がいきなり0になるわけではない。バイト収入が増えるにつれて段階的に控除額が減っていき、給与収入約188万円までは控除が受けられる仕組みだ(この場合の控除額は3万円)。

特定親族特別控除のイメージ(出所:財務省)

 制度の導入に伴い、今年の年末調整から、家族に年収123万円超188万円以下の特定親族がいる人は、特定親族特別控除申告書に特定親族の「合計所得金額の見積額」とそれに応じた「特定親族特別控除の額」を記入することになった。

 冒頭の男性には大学生の子供が2人おり、それぞれアルバイト収入がある。