地政学リスクは?懸念はトランプ政権によるベネズエラ攻撃の可能性
10月の製造業購買担当者景気指数(PMI)が7カ月連続で好不況の境目である50を下回るなど中国経済の減速感は強まる一方だ。中国の原油需要は予想以上に冷え込む可能性は排除できないだろう。
原油価格に影響を与える地政学リスクにも変化が見られる。
市場が意識し始めているのはベネズエラ(原油生産量は日量約110万バレル)の地政学リスクだ。「トランプ米政権が麻薬密輸撲滅を根拠にベネズエラに攻撃を仕掛けるのではないか」との憶測が流れているからだ。
ニューヨーク・タイムズは11月4日「米軍はベネズエラ軍事基地への空爆、マドウロ大統領の殺害、同国の油田や飛行場の制圧などを選択肢に入れている」と報じた。
米国の脅威に対抗するため、ベネズエラはロシアや中国などに支援を求めており、今後の展開次第では原油価格が急騰する可能性がある。
カリブ海とは対照的に中東の地政学リスクの影が薄くなっている感がある。
イラン情勢への関心が低くなっている中、筆者はサウジアラビアのムハンマド皇太子の訪米に注目している。18日に開催が予定されている首脳会談の主要議題は長年の懸案である米サウジ防衛協定の締結だ。
ロイターが4日「『F-35戦闘機を最大48機購入したい』とするサウジアラビアの要望を米国は前向きに検討している」と報じたように、両国の防衛協定が成立する機運は高まっているようだ。
サウジアラビア情勢の安定化は、日本のエネルギー安全保障に直結する重要ファクターだ。米サウジ両国の今後の関係について、最大の関心を持って注視すべきだ。
藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。
