(2)習近平主席による軍事大改革と「軍民融合」

 習近平氏は、2012年11月15日に開催された第18期1中全会において、党の最高職である中国共産党中央委員会総書記と軍の統帥権を握る中国共産党中央軍事委員会主席に選出された。

 2013年3月14日、第12期全人代第1回会議において国家主席・国家中央軍事委員会主席に選出され、党・国家・軍の三権を正式に掌握した。

 中央軍事委員会について若干敷衍する。

 中華人民共和国には中国共産党と国家の2つの中央軍事委員会があるが、「中国共産党中央軍事委員会」(以下、党中央軍事委員会)の構成員がそのまま「中華人民共和国中央軍事委員会」の構成員として選ばれるため、選出の時期によって多少のズレは存在するものの、基本的には両中央軍事委員会の構成員は同一である。

 党中央軍事委員会主席は権力の源泉たる軍の統帥権を持つため、実質的に中国のトップといえる。

 さて、2015年11月24日から26日までの間に北京で開催された党中央軍事委員会の改革工作会議において、習近平主席は、人民解放軍の改革を指示した。

 人民解放軍は 2015年末から2016年にかけて大規模な組織機構改革を実行した。その主要な内容は、次の通りであった。

①総参謀部の改編:4総部から15部局へ(2016年1月12日)

②ロケット軍の創設:陸、海、空、ロケット軍の4大軍種へ(2015年12月31日)

③「軍区」から「戦区」への転換:7大軍区を5大戦区へ(2016年2月1日)

④戦略支援部隊(サイバー、宇宙を担当)の創設(2015年12月31日)

 さらに、2024年4月、中国人民解放軍は情報支援部隊の創設を発表した。併せて、2015年12月に創設された戦略支援部隊が廃止され、軍事宇宙部隊とサイバー空間部隊に改編された。

 この結果、中国人民解放軍は四軍種(陸・海・空・ロケット)と四兵種(軍事宇宙部隊・サイバー空間部隊・情報支援部隊・後勤保障部隊)から構成されることになった。

 人民解放軍の組織図については下の図表第1(改革前)および図表第2(現在)を参照されたい。


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 さて、中国において核兵器やミサイルの運用を担当してきた第2砲兵は2015年12月31日、ロケット軍へと改称され、陸・海・空軍と並ぶ軍種へ格上げされた。

「ロケット軍」が創設されたわけだが、宇宙開発とともにミサイルなどのロケット開発はハイテク化が不可欠なので、大学や研究所などとタイアップし、民間企業とも連携する「軍民融合」の中で発展していった。

 そこにはふんだんな予算も割り当てられる。

 となると、当然のように芽生えてくるのは、やはり「腐敗」である。例えば、ロケット軍元司令員の魏鳳和は党中央軍事委員会委員で国防部長にまで昇進していたが、胡錦濤時代には「総参謀部」の副参謀長をしていた。

「腐敗の芽」はそこで十分に醸成されており、それがロケット軍で蠢いていたのである。

 苗華などの場合は悲惨だ。

 彼は習近平氏が書記を務めていた福建省の部隊で政治部門トップを務め、習近平氏の側近中の側近として位置づけられていた。

 その苗華をも摘発せざるを得ないところまで追い込まれたのだから、習近平氏が軍事大改革に託した「強軍の夢」は遠ざかっていったといっても過言ではないだろう。

 習近平氏が自らの運命と国運を懸けて挑んだ軍事大改革と軍民融合だったが、中国の底知れぬ腐敗文化の土壌に関する認識が、まだ甘かったのではないだろうか。