面会を認めない理由が二転三転

 江東区は当初、和子さんの居場所を教えない理由について、高齢者虐待防止法や老人福祉法に基づく措置であるかのように説明していた。ところが、真由美さんらが行政処分の通知書がないなど手続きの不備を指摘すると説明を変え、「和子さん自身が会いたくないと言っている」と言うようになった。

 しかし、「家族に会いたくない」と言った事実すら、家族は誰も確認できていない。江東区の担当職員は、連れ去り後も和子さんと面会しているが、この職員に対し、「本人が会いたくないと言っているのか」と真由美さんらが確認したところ、担当職員は「そうは言っていません」と明言している。

 虐待がなかったとしたら、和子さんが連れ去られてしまった理由はどこにあるのか。

 仮に、虐待の不存在を江東区が認めたら、カギを破壊して住居侵入したこと、連れ去り後の面会制限などは違法行為として、江東区と城東警察署が厳しく責任を問われる可能性がある。

 虐待の有無は、和子さんが証言すればただちに明らかになる。それを避けるため、和子さんを施設に隔離し、命が失われるまで家族や知人に会わせないようにしているのではないか──。そういった疑いを持たざるをえないほど、江東区の対応には数多くの問題がある。

 城東警察署で離れ離れになってから、8カ月ほどが経過した。以来、武田和子さんの消息は全く分からない。区役所に居場所を尋ねても教えてもらえない。9月生まれの和子さんは、この間、98歳になった。その記念日を近親者で祝うことはできなかった。どこかで誰かに祝ってもらったのか。それも分からないままである。

(つづく)

12/8からYouTubeで新番組「ニュースの現場」を配信予定です。初回はジャーナリストの西岡千史さんが「高齢者連れ去り事件」の真相に迫ります。連れ去られた武田和子さんのお孫さんも証言します。ぜひチャンネル登録をお願いいたします。

◎「高齢者の連れ去り事件」の連載は、調査報道グループ「フロントラインプレス」がスローニュース上で発表した記事を再構成し、その後の情報を付け加えるなどしてまとめたものです。事案の詳細はスローニュースで読むことができます。
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