虐待の認定もないのに、なぜ?

 いったい、なぜ、和子さんは連れ去られてしまったのか。

 こうしたケースで最もあり得るのは、家族らが高齢者を虐待しており、行政が「高齢者虐待防止法」に基づいて双方を強制的に引き離すケースだ。しかし、和子さんのケースでは、江東区は娘である真由美さんを虐待者として認定していない。

江東区役所=西岡千史撮影

 高齢者虐待防止法の運用に関する厚生労働省のマニュアルによると、今回のケースで真由美さんを虐待者として判断するためには、江東区は役所内で関係者を集めた「コアメンバー会議」を開き、議事録などを書面で残さなければならない。しかし、真由美さんがコアメンバー会議の議事録を情報開示請求したところ、「保有していない」と不存在の回答をされている。この議事録が存在しないということは、真由美さんが虐待者として判断されていないことを意味する。

 また、厚労省のこのマニュアルによると、虐待予防を理由に親子の面会を制限する場合、自治体は虐待を受けた者と虐待をした者の双方に書面で通知しなければならない。しかし、その通知書も真由美さんに届いていない。

 真由美さんはむしろ、面会制限を続けるのであれば、通知書を出してほしい、行政処分の内容がわからないと行政不服審査請求や処分無効を求める裁判もできないと訴えている。フロントラインプレスの取材によると、書面での通知を拒んでいるのは、江東区の方だ。

 ほかにも不可解な点がある。

 江東区は区長権限により、武田和子さんに成年後見人を付けた。区側が東京家庭裁判所に提出したその申し立て書類によると、和子さんに暴力や暴言が振るわれていたとの記述は一切ない。

 つまり、どこから検証しても、和子さんに対する虐待の事実やその疑いは浮かび上がってこないのである。