市場の重心が東から西に移っているインド太平洋

篠田:日本企業がインド太平洋地域においてどこを目指すべきかという話ですが、重心が東から西に移ってきているという状況かと思います。

 現在、東に当たる中国には、約1万3000社の日本企業が進出し、3万の拠点があります。ただ、今後はASEANやインドで人口やGDPの伸びが大きくなるので、中長期的には、アフリカ市場も含めて、日本企業は西を目指していくべきではないかと思います。

 そのためにできる政府による支援は、まずはFTAの拡大でしょう。先ほど既存のFTAの質を高めていくという話をしましたが、未締結の諸国に広げていくことも重要です。既に交渉が行われているバングラデシュやGCC(湾岸協力理事会:サウジアラビア等湾岸6カ国で構成)、8月のTICAD(アフリカ開発会議)時にはアフリカ諸国とのFTAの検討も始まりました。

 分野としては、サプライチェーンの強靱化やDX(デジタル・トランスフォーメーション)、GX(グリーン・トランスフォーメーション)が、日本政府として企業を支援する重点分野になっていると思います。

 相手国の社会課題の解決につながるように、製造業だけでなく、サービスやデジタル産業も含めて、日本として支援していくということです。AZECやADX(アジア・デジタル・トランスフォーメーション)はその例です。

 現在、ASEANへの投資では中国が日本を上回っています。1980年代に日本企業がASEANに進出してサプライチェーンを拡大・強化したのと同じようなことが、今後中国のASEAN進出によって起きるのではないかとの指摘があります。

 その時に、日本企業は中国企業とどう向き合うのか。ASEANのような第三国で対抗することもあれば協力もする、インドなどの中国のプレゼンスが比較的低い国を目指すというのもあるかと思います。多様な戦略の検討が必要になると思います。

モデレーター:3回の対談に続き、座談会でも大変有益なお話を伺いました。どうもありがとうございました。

左から、オウルズコンサルティンググループの羽生田慶介CEO、助川成也・国士舘大学政経学部教授、篠田邦彦・政策研究大学院大学教授、椎野幸平・拓殖大学国際学部教授