インドへの追加関税を50%に引き上げるなど、関税を活用したトランプ政権の揺さぶりが続く(写真:ロイター/アフロ)
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 オウルズコンサルティンググループによる「トランプ2.0時代のインド太平洋経済秩序と日本企業への影響」をテーマとした連続対談。締めくくりとして、これまでの3回の対談にご参加いただいた篠田邦彦・政策研究大学院大学教授、椎野幸平・拓殖大学国際学部教授、助川成也・国士舘大学政経学部教授(対談順)と、同社代表取締役CEO・羽生田慶介による座談会を2回にわたって掲載する。(モデレーター:同社シニアフェロー・菅原淳一) ※座談会は10月3日に実施

【第1回】トランプ関税で激変するインド太平洋の経済秩序、これから起きる4つの変化に日本人と日本企業はどう対処すべきか?
【第2回】ASEANと中国ではどちらからの輸出が得か、関税地獄の中でFTAをどう活用すべきか…トランプ2.0の負けない貿易戦略
【第3回】ブロック化する世界の中で重要度が増すCPTPP、瓦解する自由貿易体制を守り抜くために必要なASEANとの連携深化

ASEANの米中均衡戦略はうまくいくのか

モデレーター:3回の連続対談では、「トランプ2.0下のインド太平洋経済秩序と日本企業への影響」をテーマにご議論いただきました。今回は、その中で特に興味深い論点について皆さんのご意見を伺いたいと思います。

 このテーマを論じる際に最も注目されるのは、米中対立の中でインド太平洋諸国がどのようにこれに対処するかという点だと思われます。対談では、ASEAN(東南アジア諸国連合)は、米中どちらか一方に付くのではなく、両国の間でバランスをとる米中均衡戦略をとっていくとのお話がありました。しかし、米中双方による圧力や懐柔策によって、これは今後一層難しくなっていくのではないかと思われますが、いかがでしょうか。

篠田邦彦氏(以下、篠田):ASEANにとっては中国が最大の貿易相手国である一方、米国がASEANへの最大の投資国です。ASEANの一部諸国は安全保障面においても米国の支援を受けていることからすれば、米中均衡戦略が最も合理的な戦略で、これは今後も変わらないとみています。

 ただ、ASEANの中でも国ごとの違いは出てくるでしょう。ベトナムやフィリピンは南シナ海の領有権問題で中国と対峙していますし、他方でカンボジアやラオスは中国からの高速鉄道や経済特区の開発などで中国に経済的に大きく依存しています。

 また、分野によっても違いがあると思います。例えば、インフラ投資では、一帯一路による中国との連結性強化はASEANにとって重要です。他方、IT(情報技術)分野では、米国のプラットフォーマーがASEANにも進出していますので、企業間協力を深めていくとみられます。

モデレーター:第2回対談では、ASEANの対米輸出における中国による積み替えや迂回輸出に対する米国の高関税賦課などによって、中国から原材料や中間財を輸入し、域内で最終製品にして米国に輸出するというASEANのビジネスモデルが今後難しくなるとのお話もありました。この点はいかがでしょうか。

助川成也氏(以下、助川):厳しくなると思います。日本企業を中心に、現地やASEAN域内での調達を増やす方向に向かうとみています。

 ベトナムの場合、最大の輸出市場である米国を今後も確保していくということであれば、迂回輸出とみなされて40%もの関税を課せられる状況を回避すべく努力していくでしょう。この状況は、第2期トランプ政権(トランプ2.0)後も大きくは変わらないという前提で考えた方がよいと思いますので、企業にとってサプライチェーンの再編は一考の余地があると思います。

モデレーター:トランプ2.0後も米国が以前のような自由貿易志向に戻るか戻らないかは大きな論点のひとつです。トランプ大統領の任期満了までのあと3年強を我慢すればよいのか、その後も関税措置を多用する保護主義的、米国第一主義に基づく政策が続くのかで、企業の事業戦略は大きく変わると思いますが、この点はどうでしょうか。