トランプ大統領の関心が低いQuadと米印関係

モデレーター:最近では、印中関係はBRICSでの連携等を通じて深まっているようにみえます。他方で、トランプ大統領はQuad(日米印豪)への関心も低く、米印関係は冷めているように感じます。

篠田:インドは、戦略的自律性を外交政策の基本として、米国、中国、ロシア、欧州などと等距離外交を続けてきましたが、米国から50%もの関税を課される一方、9月には上海協力機構首脳会議に参加して中国との距離を縮めました。

 ただ、同会議前にはモディ首相が訪日して日印首脳会談を行ったり、抗日戦争勝利80周年記念式典には参加しなかったり、日本や西側諸国への配慮がみられます。BRICSの拡大も、インドよりも中国やロシアが積極的であるように思います。

 インドは2023年にG20の議長国を務めた際に、AU(アフリカ連合)を招いたり、「グローバルサウスの声サミット」を開催したり、独自のグローバルサウス外交を展開しているようにみえます。

 Quadは、今秋に予定される首脳会合にトランプ大統領が参加しないのではないかと言われており、結束力が落ちています。また、IPEF(繁栄のためのインド太平洋経済枠組み)も、サプライチェーン協定やクリーン経済協定などが残っていますが、米国は実質的に不参加の状況になっています。

 その点では、米国抜きでも、インドやオーストラリア等を巻き込んだ枠組みを強化していくことが日本にとっての課題となっています。

モデレーター:インドは「グローバルサウスの盟主」を自任していますが、こうしたインドの動きをASEANはどのように評価しているのでしょうか。

助川:インドは人口規模も大きく、現在ASEAN・インドFTA(自由貿易地域)の物品貿易協定の改正交渉も行っています。ASEANもインドとは良好な関係を築き、米中に加えて第3のリスクヘッジの国とみているように思います。

椎野:ASEAN諸国は総じて、輸出先の多元化を進めようとしています。インド市場の開拓は、ASEAN各国にとっても中長期的な課題です。シンガポールは既に先駆的な動きをみせています。

 また、IPEFがどこまで使えるかわかりませんが、日本も含めた形で日・ASEAN・インドのサプライチェーンの強靱化を図っていくことも重要です。

モデレーター:近年の日本企業へのアンケート調査では、今後の投資先としてインドは上位にあります。日本企業にとって、こうしたASEAN・インド関係はどのようにみえているでしょうか。

羽生田:インドは、日本企業にとって魅力的な市場ですし、ひと頃よりも魅力が増しています。かつては、マルチスズキ(スズキのインド子会社)を例外として、日本企業は苦杯をなめてきましたが、近年では日本企業もインド市場での戦い方を身につけてきたと思います。

 ASEAN・インド関係でいえば、在ASEAN企業にとってインドは輸出市場として魅力を増していますが、サプライチェーンとして連結するということには冷めているように思います。ただ、デジタル分野は、マレーシアの半導体製造とインドのソフトウェアなど、現実味が出てきた気がします。