サウジが米国に抱く本音

近藤:2019年9月にサウジの石油施設がかなり手ひどく攻撃を受けました。アメリカはこの時に、攻撃を防ぐことができなかったばかりではなく、攻撃したのはイランであることまでインテリジェンスのレポートで発表しながら反撃しませんでした。その結果「アメリカは守ってくれない」という意識をサウジは持つようになりました。

 日本とアメリカの間には安全保障条約がありますが、サウジとアメリカの間には、そこまで強力な条約はありません。バイデン政権下では、米サ間でも日米安全保障条約に相当する条約が結ばれる可能性がありました。このとき、アメリカはサウジにイスラエルとの国交正常化を条件として求めました。

 サウジはこの提案に乗りかけたのですが、そこでハマスによる越境奇襲攻撃があり、ガザ戦争が勃発してこの件は頓挫しました。

 サウジは、9月にパキスタンとの間で相互防衛協定を締結しました。この協定には「一国に対する攻撃は両国に対する攻撃と見なす」という文言が含まれています。

 パキスタンは貧しい国ですが、軍事力があり、マンパワーがあり、核兵器もあります。いざという時に、どこまでパキスタンが実際に動くかは分かりませんが、サウジとしては米サ間の不安な部分を補う要素として、こうした関係を構築したのだと思います。

──サウジアラビアといえば石油のイメージが強く、本書でもいかにサウジが石油の禁輸措置を外交上の武器にしてきたのかを解説されています。現在のサウジは、どれぐらい石油の輸出に依存した経済構造になっていますか?

近藤:GDPに占める割合は最近減ってきて、現在はおよそ30%を切るところまできましたが、輸出品に占める石油の額は圧倒的です。2015年以降「サウジビジョン2030」という経済多角化政策を始め、ある程度は非石油産業も成長していますが、まだまだ石油から脱却したとは言えません。

 UAE、クウェート、オマーンなどの湾岸諸国、そしてイラクやイランなど、中東の半分とは言いませんが、かなりの国々が石油に依存しています。その中でもサウジの石油シェアは突出しており、生産量が日量1000万バレルで、周辺の国々と比べても倍以上の差をつけています。埋蔵量でもサウジは圧倒的で、続くUAEとも2倍以上の差をつけています。

近藤 重人(こんどう・しげと)
一般財団法人日本エネルギー経済研究所 中東研究センター 主任研究員
2008年筑波大学第三学群国際総合学類卒業、同年クウェート大学アラビア語語学留学、12年サウード国王大学(サウジアラビア)法政治学部客員研究員、同年日本学術振興会特別研究員(DC2)、16年慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了、博士(法学)、同年(一財)日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究員、19年同主任研究員、22年アブダッラー国王石油調査研究センター(KAPSARC、サウジアラビア)出向。この間、2016年青山学院大学非常勤講師、17年慶應義塾大学非常勤講師、東洋英和女学院大学非常勤講師、23年秋田大学非常勤講師などを兼任。

長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。