山口晃《東京圖 1・0・4輪之段》(部分) 2018-25(平成30-令和7)年 カンヴァス・彩色 山種美術館 撮影:宮島径 ©︎YAMAGUCHI Akira, Courtesy of Mizuma Art
(ライター、構成作家:川岸 徹)
国内外の「聖地」を描いた作品と、現地の写真をあわせて展示する特別展「日本画聖地巡礼2025-速水御舟、東山魁夷から山口晃まで-」が、東京・山種美術館で開催されている。
人気展覧会の第2弾が開幕
宗教上の聖地や霊場を訪問する場合だけでなく、近年では映画、小説、漫画、アニメなどの舞台を訪ねる際にも用いられる「聖地巡礼」という言葉。2023年に山種美術館で開催された「日本画聖地巡礼」展では、作品に描かれた土地や画家と縁の深い場所を「聖地」とし、作品と現地の写真を並べて紹介。リアルな風景を絵画化する画家の個性やセンスが強く感じられる、実に楽しい企画展であった。
この企画展の第2弾「日本画聖地巡礼2025-速水御舟、東山魁夷から山口晃まで-」が山種美術館で開幕した。展示は作品と現地の写真をあわせて鑑賞する前回のスタイルを踏襲しているが、今回は取り上げる聖地がスケールアップ。日本国内だけでなく、中国、イギリス、エジプトなど世界各地の聖地を題材にした作品も紹介されている。
速水御舟《名樹散椿》など名品が並ぶ
速水御舟《名樹散椿》【重要文化財】1929(昭和4)年 紙本金地・彩色 山種美術館
さっそく、注目作を見ていきたい。国内の聖地を舞台にした作品は、北海道から沖縄まで計34点。速水御舟《名樹散椿》は重要文化財に指定された御舟の代表作。京都市にある昆陽山地蔵院、通称“椿寺”の境内にある五色八重散椿を取り上げた作品。御舟が現地に赴き写生した時点で、樹齢はすでに約400年。その後枯れてしまい、現在は同じ場所に二代目の椿がある。
東山魁夷《年暮る》1968(昭和43)年 紙本・彩色 山種美術館
東山魁夷《年暮る》は魁夷が定宿として利用していた京都ホテル(現在のホテルオークラ京都)から見える京都の町家の光景を表した作品。親しかった川端康成から「京都のあるうちに描いておいてください」とうながされ、本作を描いたという。実際、魁夷が《年暮る》を制作した1968(昭和43)年は街の近代化が大きく進んでいた。それ以前の風景を知る魁夷は「京都で年の暮れを過ごして、除夜の鐘を聞きました。まだ瓦屋根が多く、そして四角いビルが少なかった時代で、この《年暮る》という作品は、京都への郷愁と愛惜の心から生まれたものです」との言葉を残している。
奥田元宋《奥入瀬(秋)》1983(昭和58)年 紙本・彩色 山種美術館
奥田元宋《奥入瀬(秋)》は青森県・奥入瀬渓流の秋を捉えたもの。“元宋の赤”と呼ばれる赤の絵具をふんだんに使い、3か月をかけて制作されたという。作品の傍らには、山種美術館・山﨑妙子館長が現地を訪れて撮影した写真が展示されている。写真は8月に撮影したものだそうで、青々と茂る木々の中を流れるせせらぎが何とも清々しい。
これらの作品は前回展でも登場していた。「聖地」を語るうえで外すことができない、ベスト・オブ・聖地といえる存在なのだろう。何度見ても、聖地の呼び名に恥じない尊さを感じさせてくれる名品だ。