韓国・京畿道広州にある元従軍慰安婦の女性らが生活する支援施設「ナヌムの家」。敷地内には亡くなった元慰安婦たちの胸像がずらっと並んでいる(写真:共同通信社)
元慰安婦たちが共同生活を送るための支援施設「ナヌムの家」を相手どり、「過去に寄付したおカネを返還してほしい」と裁判を起こしていた元支援者の勝訴が確定した。
この訴訟は2020年、「ナヌムの家は元慰安婦補助金を不正受給し支援者からの寄付金までも詐取している」という内部告発が飛び出した「ナヌムの家事件」を受け、一人の支援者が「これまでの寄付金155万ウォンを返してほしい」と提起した民事訴訟だった。
一審、二審ともに原告敗訴の判決が下されていたが、最高裁が「ナヌムの家が明示した支援目的と実際の使途の間に不一致が存在する、それを知っていたら支援者は支援契約を締結しなかっただろう」として原審を破棄、差し戻した。これを受けたソウル中央地裁は9月24日、ナヌムの家側に対し原告に155万ウォン(約17万円)と遅延損害金を支払うよう命じる判決を下したのである。
この判決は、現在まったく同じ内容の訴訟を抱えている尹美香(ユン・ミヒャン)元議員の民事裁判にも影響を及ぼすものと見られている。
慰安婦問題をリードしてきた「ナヌムの家」
京畿道広州にある「ナヌムの家」は、元慰安婦たちが共同生活を送るための支援施設で、韓国仏教界の最大宗団である曹渓宗が管理している。設立以来、ナヌムの家は、慰安婦問題の象徴的な存在として韓国挺身隊問題対策協議会(=挺対協。現在の日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯=正義連)と共に最も積極的に声を上げ活動してきた。2015年12月の日韓慰安婦合意の際には合意反対世論を主導したことでも知られている。
2004年、ソウル大学の李栄薫教授が「従軍慰安婦は売春業」などと発言したところ、挺対協から猛批判を浴びた。一連の騒動は、李教授が「ナヌムの家」で元慰安婦らに土下座して謝罪するという事態にまで発展した(写真:Yonhap/アフロ )
合意成立当初、韓国のテレビ局の報道によれば、当事者である元慰安婦らの間では合意に賛成する声が多かった。
ところが、ナヌムの家で暮らす10人ほどの元慰安婦たちが合意に抗議して絶叫する様子や、彼女たちの前で政権関係者たちが頭を下げる様子をとらえた生々しい映像が韓国全土に放送されると、国民世論は一気に「合意反対」に傾いた。