独自のソフトウエアを開発し、生産効率を高めた中森剛志氏(写真:中森農産提供)
コメを中心に、創業8年で作付面積330ヘクタールを保有するようになった中森農産代表の中森剛志氏(37)。同氏は前編で「コメ生産を安定的なものにするには、国を挙げて大規模農家を支援するべきだ」と語った。中森氏自身は、どのように大規模農家になったのか。国策としても必要不可欠な、「コメ生産の稼ぎ方」を分析しよう。(後編/全2回)
(湯浅大輝:フリージャーナリスト)
>>前編:「このままだと米が食えなくなる!」気鋭の大規模農家が危惧する日本のコメ政策、価格を下げる唯一の解とは
中森農産が一気に大規模農家になれた理由
──中森農産は短期間で日本有数のコメ農家に成長しました。国策としても早急に大規模農家を育てる必要があるとのご意見ですが、中森さんご自身はどのようにして会社を成長させてきたのでしょう。
中森剛志氏(以下、敬称略):日本のコメ生産の現場では「農地の集約」、つまり「バラバラに点在する農地を『1つにまとめる』」ことが非常に難しいという課題を抱えています。
欧米と比較すると、農地が著しく小さく、所有者ごとに区画が細切れになっているのがその最大の理由です。
一方で農地面積そのものを拡大させていかなければ、生産量を増やせません。生産量を増やせなければ売り上げが立ちませんから、廃業するリスクが出てきます。
中森農産では、無駄を覚悟で「バラバラの農地をそのまま借り入れ・購入」し、農地面積を広げていきました。農業用語では「農地の集積」にまず取り組んだということです。
あえて非効率な戦略を採用した理由は、まずは大規模に生産できる体制を整える必要があると考えたからです。分散している農地を増やせば生産効率は落ちますが、とりあえずは「大規模農家」として認知してもらえる。
農地の「集積」に取り組んだ中森農産(写真:中森農産提供)
これは今後、農地をさらに拡大させていくときにも有利に働きます。さらに、経営体として、人材採用や研究開発への投資にも取り組めます。
まずは埼玉県で、集約を度外視して「集積」に徹底的に取り組みました。現在230ヘクタールほど借りている埼玉県で農地面積そのものを増やすべく、地主と交渉していったのです。特に加須市では、毎年離農する農家が増えていて農地面積拡大に有利に働きました。
農地が一定以上増えていくと、必然的に生産効率も落ちていきます。農地が分散し、各作業工程の生産性やマネジメント効率が落ちていくからです。
そこで当社が取り組んだのは「農地を限定して集約する」という戦略です。埼玉県の230ヘクタールの農地をそのまま「1つの区画」としてまとめ、生産効率を上げていくことは物理的に不可能です。農地がバラバラに点在しているわけですから。
一方で、農業経営者として「30ヘクタールの農地を『1つの区画』として位置づける」ことはできる。
近接する農地の30ヘクタールを「1つの管理区域」として扱い、オペレーションの合理化に取り組みました。様々なデータを駆使し、機械・人・時間の投入を最適化できるように設計──結果として水管理や農機の稼働率が向上しました。
この「30ヘクタールを1つの経営区域とみなす」という戦術を、栃木県や埼玉県など他の地域でも横展開させています
──中森農産のように「まずは農地を拡大し後から生産効率を上げていく」という戦略は日本のコメ生産の現状を考えたとき、最適解と言えるのでしょうか。