「幕末土佐の天才絵師 絵金」展示風景。《伊達競阿国戯場 累》二曲一隻 香南市赤岡町本町二区 【通期展示】
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(ライター、構成作家:川岸 徹)

幕末から明治初期にかけて数多くの芝居絵屏風を残し、地元高知では「絵金さん」の呼び名で親しまれる絵師・金蔵。高知県外では半世紀ぶりとなる展覧会「幕末土佐の天才絵師 絵金」がサントリー美術館で開幕した。

高知の夏祭りといえば「絵金さん」

 恨みに歪んだ顔つきで、刀を振り下ろし、切り落とされた首や腕が宙を舞う。過激でいて、どこかユーモアを感じさせる芝居絵屏風で知られる幕末~明治の絵師・金蔵(1812-76)。故郷の高知では「絵金さん」の愛称で親しまれ、残された作品は高知の人々の生活に溶け込み、地域の文化として大切に受け継がれている。

 高知が“絵金の地”であることを強く実感させてくれるのが夏祭り。祭りでは絵金が手がけた芝居絵屏風が神社や商店街の軒下に飾られ、会場を華やかに盛り上げてくれる。提灯やロウソクの灯りで浮かび上がる絵金の絵はおどろおどろしくもあるが、同時に鮮烈な美しさを放つ。

 絵金の芝居絵屏風が飾られる夏祭り会場は、最盛期には約30か所あったというが、近年は減少傾向。それでも今なお13会場で鑑賞が可能だ。今年の夏祭りシーズンは終わってしまったが、ぜひ一度、機会を見つけて足を運んでほしい。絵金の作品に会える会場は以下の通り。

①八幡宮(須崎市西古市町)
②愛宕神社(高知市春野町)
③諸木八幡宮(高知市春野町)※不定期開催
④朝倉神社(高知市朝倉)
⑤郡頭神社(高知市鴨部)
⑥岡三所神社(高知市東秦泉寺)※不定期開催
⑦河泊神社(南国市稲生)
⑧天満宮(南国市片山)
⑨熊野神社(南国市久礼田)
⑩八王子宮(香美市土佐山田町)※不定期開催
⑪須留田八幡宮、絵金祭り(香南市赤岡町)
⑫浅上王子宮(香南市香我美町)
⑬川北大師堂(安芸市川北)

 高知で圧倒的な人気を誇る絵金は、全国的にもファンが多い。1960~70年代には全国的な「絵金ブーム」が巻き起こっている。1966年に雑誌『太陽』で特集が組まれ、1971年には20歳の青年・金蔵が絵師「絵金」になる様子を描いた映画「闇の中の魑魅魍魎」が公開された。だが、それ以降、なかなか知名度が高まらないのは大規模な回顧展を開催しにくいため。約200点が現存する芝居絵屏風のほとんどが高知の神社や自治会などに分蔵され、まとめて鑑賞する機会を作りにくいのだ。