なぜ人はマウントを取ろうとするのか(写真:MiniStocker/shutterstock)
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 家庭や職場、SNS上のマウント合戦や米国のトランプ大統領まで「マウントを取る人々」が世界にはびこっている。なぜ彼らはマウントを取るのか、取らずにはいられない要因と対処法、自分がマウントを取っていることに気づくにはどうすればいいのか。『マウントを取らずにはいられない人』を上梓した片田珠美氏に聞いた。(聞き手:飯島渉琉)

マウントを引き起こす三つの心理

──マウント(mounting)とは、「社会的順位において自分の方が上位であることを確認する行為」であり、「その根底には、往々にして強い羨望と嫉妬が潜んでいる」と本書の中で書かれています。強い羨望と嫉妬が、どうしてマウントを取るという行動につながるのでしょうか。

片田珠美氏(以下、片田):マウントを取る、つまり相手より自分が上であると示そうとする人の根底には、大きく3つの心理が潜んでいると考えられます。

 1つ目は、自分が認められたいのに認められないことから生まれる「不満と怒り」。その根底には、自分自身への過大評価があります。

 たとえば、自分は仕事ができると思い込んでいるけれども、第三者が客観的に見るとそれほど仕事ができるわけではなく、評価もされず昇進もしない。すると、なぜ自分は評価されないのかという不満と怒りから、誰かが昇進すると素直に喜ぶことができず、「『昇進うつ』っていうのがあるから気をつけないとね」とか「昇進しても降格される人もいるからね」などと、他者を否定するような余計な嫌みを言ってしまいます。

 2つ目は、「満たされない承認欲求」。自分を認めて欲しい、自分を高く評価して欲しいという願望が非常に強い人です。これは自己愛に由来します。

 自己愛が強いほど承認欲求が強くなりますが、その自己愛が満たされないと、胸が焼けつくような思いをしてしまいます。だから、成功した人間がいると、その価値を否定せずにはいられないし、悪口を流して引きずり下ろそうとすることさえあります。

 そして、3つ目が「羨望と嫉妬」。羨望とは、「他人の幸福や成功が我慢できない怒り」のことです。一方「嫉妬」とは、自分が手にするはずだった幸福を得られないのではないか、他人に奪われるのではないか、あるいは自分が手にしている幸福を失うのではないかという「喪失不安」です。

 マウントを取る人は、どちらかというと羨望が強いと思います。自分の中に強い羨望があっても、自身の自己愛や自尊心が傷つくのでそれを受け入れられないし、自分で認めることもできない。自分があの人の幸福や成功を羨ましいと思っていることを認めると、自分があの人よりも劣っていることを認めることになるからです。

 だから、あたかも自分には羨望がないかのように振る舞うために、自分が相手より勝っている点を誇示して自分の方が上だとマウントを取る、あるいは相手のSNSを荒らしたり相手の欠点を捏造したりして、相対的に自分の方が上だと示そうとする。

 このように、自分の中にある羨望から目を逸らし、受け入れられないことがマウントを取る行為に繋がります。