インドネシア経済の「安定の要」とされていたスリ・ムルヤニ財務相が更迭された(写真:ロイター/アフロ)
(宇田 真:コンサルタント)
インドネシアが大混乱に陥っている。議員に対する高額な住宅手当に反対するデモが8月から頻発していたが、配達中のバイク運転手が警察車両にひき殺されたことをきっかけに一部が暴徒化。1998年のジャカルタ暴動以来と言われほどの政情不安に見舞われている。
プラボウォ大統領は議員住宅手当の廃止や内閣改造で乗り切ろうとしているが、それがさらに事態を悪化させている。9月8日の内閣改造で、これまで「経済安定の要(かなめ)」とされていたスリ・ムルヤニ財務相を更迭したからだ。財政規律の崩壊を不安視した市場は、同国の通貨ルピアと株式に売りを浴びせた。
そもそも、インドネシア経済の守護神のような役割を果たしていたスリ・ムルヤニ氏とはどんな人物だったのか。そして、インドネシア経済はどうなるのだろうか。
インドネシアで広がった反政府デモ=9月1日撮影(写真:ZUMA Press/アフロ)
「経済安定の要」スリ・ムルヤニ氏
スリ・ムルヤニ・インドラワティ氏は、インドネシアを代表するテクノクラートであり、同国史上もっとも知名度と評価の高い財務相の一人である。1962年、ジャワ島に生まれ、インドネシア大学で経済学学士、イリノイ大学で経済学博士号を取得。その後、インドネシアとアメリカの大学教授を経て、2002年に国際通貨基金(IMF)理事に就任。ユドヨノ政権下の2005年に財務相へと抜擢された。
当時、アジア通貨危機の爪痕が色濃く残るインドネシア経済において、財政規律の徹底と外資からの信頼回復を進めた手腕は高く評価された。その後、2008年の世界金融危機でも同国をいち早く回復軌道に乗せている。
もっとも、そのときは破綻した同国の大手銀バンクセンチュリーを救済した手法などをめぐり批判され、2010年に世界銀行専務理事へ転身。だが2016年、ジョコ・ウィドド政権の要請を受けて再び財務相に返り咲いた。
その後も一貫してインドネシア経済の安定に辣腕をふるい、コロナのパンデミックを乗り切り、財務規律を重視して腐敗にも厳しく対応。2024年10月に発足したプラボウォ政権でも財務相に留任した。市場からの信頼は抜群でインドネシア経済は「スリ・ムルヤニあっての安定」と評されることも少なくなかった。