ついに経営層にまでAIが進出(筆者がWhiskで生成)
目次

(小林 啓倫:経営コンサルタント)

「AI役員」のアイデア自体は目新しいものではない

 いまや取締役会のテーブルに座るのは人間ばかりではない。AI(人工知能)が経営会議に参加し、企業戦略の議論に加わる――。そんなSF的な光景が現実になりつつある。

 たとえば2022年には、中国のゲーム企業NetDragonでAIがCEOに就任し、2023年にはポーランドのラム酒業者Dictadorが人間型ロボット「ミカ」をCEOに迎えたことが報じられている。

 また、2024年には中東の巨大企業IHCが取締役会にAIのメンバーを加える(ただしオブザーバーであり、議決権のないポジションとのこと)など、世界で「AI役員」が登場し始めている。

 実は、AIを経営陣に取り入れるというアイデア自体は決して目新しいものではなく、2014年には香港のベンチャーキャピタルがアルゴリズムを取締役会のメンバーに任命した例もあった。当時は物珍しさもあって「話題先行の実験」と見る向きもあったが、その後のAI技術の飛躍的進歩によって、改めて現実的な経営手法として注目を集めている。

 最近の「AI役員」の動向をまとめてみよう。

 いま「AI役員」という表現を使ったが、この言葉が専門用語として確立されているわけではない。この記事では便宜上、「特定の企業、あるいは業界の経営層の思考パターンを再現したAIアプリケーションであり、幅広い情報や専門知識に基づいて、人間の役員の相談相手になったり、戦略立案に参与したりする存在」と定義しておきたい。

 一般的に「AI役員」は、過去の経営会議の議事録、社内資料、市場データなどを学習し、経営戦略の立案や意思決定を支援するシステムとして開発されている。その位置付けは、あくまで人間の役員を補佐する「右腕」であり、最終的な意思決定は人間が行うという点が重要だ。

 このアイデアが注目されるようになっている背景には、近年のAI技術の飛躍的進歩と、企業経営を取り巻く環境の複雑化がある。