なぜ日本人は「にせだぬきじる」と「にせたぬきじる」の違いが分かるのか(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)
会話の中で、話し手と聞き手が自然に役割を交代する瞬間。その平均時間がわずか0.2秒であることをご存じだろうか。私たちは、視線や声の抑揚、文の構造から話の内容を予測し、瞬時に応答しているのだ。さらに日本語では、主語を省いてかぶせ気味に返答しても会話は成り立つ。
『会話の0.2秒を言語学する』(新潮社)を上梓した水野太貴氏(「ゆる言語学ラジオ」スピーカー)に、日常会話に潜む奥深い仕組みについて、話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)
──本書のタイトルは『会話の0.2秒を言語学する』です。なぜ、会話の「0.2秒」に着目したのでしょうか。
水野太貴氏(以下、水野):日常の会話では、話し手と聞き手が自然に交替していきます。これを、「ターンテイキング」と呼びます。
『会話の科学 あなたはなぜ「え?」と言ってしまうのか』(著:ニック・エンフィールド、訳:夏目大、出版社:文藝春秋)に紹介されていた研究で、この交代にかかる平均時間が「0.2秒」だと知り、衝撃を受けました。想像以上に短く、自分の会話もこんなにスピーディーなのかと驚きました。
その後も多くの言語学書を読みましたが、この「0.2秒」に焦点を当てた著作はほとんどありません。僕は言語学者ではなく、一介の言語好きにすぎませんが、既存の膨大な研究の中で自分にしか書けないテーマは何かと考えたとき、この「0.2秒」が浮かびました。
特に僕は、普段は出版社で編集者をしています。仕事の中で、インタビューをする機会が多々あります。また、PodcastとYouTubeで配信している「ゆる言語学ラジオ」では、相方の堀元見さんとひたすらしゃべっています。仕事でもプライベートでも、僕は「0.2秒」に他の人よりも少しだけ深く接しているのかもしれません。
0.2秒という短い時間には多くの要素が詰まっており、言語学者も深くは掘り下げていない領域です。だからこそ、身近でありながら奥深いこの瞬間をテーマに、一冊の本にまとめようと思った次第です。
──視線やジェスチャー、イントネーションは会話のターンテイキングにどのような役割を果たしているのですか。
水野:人は会話中、相手に発言の順番を譲るタイミングを同時に伝えています。会話分析や談話分析の分野では、視線や身ぶり、声の抑揚が「もうすぐあなたの番ですよ」というシグナルとして機能することが知られています。
──シグナルを誤って発してしまっていた英国の元首相マーガレット・サッチャーの話がとても興味深かったです。