「第1回 高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」では、事務局側が「丁寧に議論」「丁寧な議事運営」「データのほうを私ども事務局で丁寧につくらせていただき」と答えたことに対して、日本難病・疾病団体協議会代表理事の大黒宏司委員が、
「先ほどから丁寧にということがずっと言われていますけれども、ヒアリングの回数とかだけではなくて、基本的には患者の立場からいいますと、患者の理解であるとか、納得であるとかというのがやはり大事かと思います。(中略)ぜひ私たちも一緒に考えますので、理解できるというところを非常に考えていただいて、それが丁寧につながっている」*2
と述べておられました。
厚労省で開かれた高額療養費制度の見直しに向けた専門委員会の初会合=5月26日(写真:共同通信社)
たくさん時間をかけたり、膨大な数字を出すことではなく、機能や特性を見出し、組み合わせて調整するという手間をかけることが〈丁寧〉だと思います。真に丁寧な議論にするために当事者が声を上げ続けていかねばなりませんし、私もその一端を担いたいと思っています。
*2 第1回「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」 議事録より
患者の能力ってなんだろう?
――先ほど「開き直っている」とおっしゃっていましたが、どんなふうに?
勅使川原 私はAYA世代(15歳から39歳までの世代)がん患者で、乳児を育てている間に進行した状態のがんが見つかりました。「なぜ私が」「どうして私が」という分けても分けてもわからない答えを求めた時期もありますが、哲学者の宮野真生子氏が人類学者の磯野真穂氏との往復書簡『急に具合が悪くなる』の中で、
「不運ではあるが、不幸ではない」
と書いたように、ただ不運だったのだと受け入れられた状態が「開き直っている」のだと思います。運は平等に散らばっているけれど、受ける時や場所が違っただけなんだと。
――6月8日に開催されたISPACOS第14回シンポジウム*3の締めくくりに、バンコク病院メディカルコーディネーターの志村円氏が以下のように発言しました。
「がん患者が自分を責めてしまうという意見があったが、そのようなことは、患者さんの周りの人たちは全く思っていないと思います。日本の医療制度は、皆で支え合うことで成立しています。お金のことだけをみると、その人が生きているだけで経済を回している一人です。また、その人たちが家族や身近な人と過ごす時間は、まさにプライスレス。自分ががんになったことで負い目を感じることは、まったく必要のないことだと思います」
勅使川原 本当にそうだと思います。私はこれまでにできることをやったし、またいつかできるときにできるだけのことを世の中に還元したいと思っているんです。お金で分配するだけではなく、文章を書いたり誰かと対談したりといった発信も還元になるんじゃないかな。がんの治療を受けることだって、誰かがハッピーに働けるようにコンサルタントの仕事をするとか、社会というチームの一員として私の特性を生かすためだと開き直ったんですよ。
もちろん、誰もが私のように開き直ったり、受け入れたりする必要はないと思いますよ。他者とともに、影響し合いながらゆらゆらと歩むのが人生ですから。
*3 第14回 ISPACOSシンポジウム「医療費の現状を考える」
【勅使川原真衣氏・プロフィール】
1982年、横浜市生まれ。東京大学大学院教育学研究科修了。外資コンサルティングファーム勤務を経て組織開発コンサルタントとして独立。2児の母。2020年から進行乳がん闘病中。著書『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社、22年)は紀伊國屋じんぶん大賞2024で第8位入賞。続く『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社、24年)は新書大賞2025にて第5位入賞。その他著書多数。最新刊は『学歴社会は誰のため』(PHP、25年)。日経ビジネス電子版と論壇誌Voice、読売新聞「本よみうり堂」にて連載中。




