開発担当者によると、最初はマツタケが欲しかったそうだ。「マツタケが降ってくる夢を見たほどだった」と、苦労を冗談混じりで語っていた。そこから、当時としては国産価格の乱高下の激しかったシイタケに目をつける。そこで雲南省の防空壕だった洞窟で栽培をはじめたのが成功のきっかけだった。
そして、ネギ。当初は上海のパイロットファームでキャベツを栽培していた。これを日本向けにコンテナに積み込み、空いた隙間にネギを詰めてみた。それが日本に到着してコンテナを開けてみると、ネギが青々としていた。「いける!」となって、本腰を入れはじめた。
消費者にとっては有益でも日本の食料安全保障にとっては……
「品薄や価格の乱高下を防ぐ」。まさに現在のコメ騒動と重なる事情だ。それにも増して消費者に有益だったのは、野菜の周年化が可能になったことだった。中国の温厚な気候で育てることで、1年を通して安定的に供給できる。日本の鍋の季節に、ネギやシイタケが不足するということもなくなった。
しかし、これが先駆けとなって、日本の中国への食料依存が高まっていったことも事実だった。シイタケとネギは、のちに日本政府が発動したセーフガードの対象ともなっている。開発輸入による冷凍加工食品の輸入も増え、一方で中国の「毒食」問題も露見し、それでも中国からの食料輸入額は、いまも米国に次いで高い。
米国大使館で開かれたカリフォルニア産米の販売発表会で、イオンの土谷美津子副社長はこう述べている。
「価格の高止まりで明日の食事にも困っているという消費者の声を聞く。日本のコメ食文化を支えていくことが重要だ。国産米を大切にしながらも供給の安心や選択肢を提供していきたい」
(写真:Romix Image/Shutterstock)
だが、一度開いた門戸を再び閉じることができるだろうか。閉じれば、米国が黙っていないだろう。同席したジョージ・グラス駐日大使はこう述べている。
「世界で最も品質の妥協を許さない消費者がいる日本で販売されるのは歴史的なことだ。日本の消費者からも高い評価を得られるだろう」
以前のように国産米の価格が安定して、外国産米より安くなれば、米国が関税の見直しを迫ってくるはずだ。米国をはじめとする海外への食料依存が、主食にまで拡がってもおかしくはない。