欧米では医療分野にもAIの利用が急速に進む(Michal JarmolukによるPixabayからの画像)
前編では「AIで何ができるか」という段階から「AIで何をすべきか」へと発想を切り替える重要性を論じました。
本稿ではさらに踏み込み、金融、製造、医療、教育といった主要産業におけるAI活用の実態を、日米の比較を交えて検証します。
加えて、日本のビジネスパーソンが今すぐ取り組むべき実践的な指針についても整理します。
金融業界におけるAI活用の最前線
米国の金融業界では、AI導入はすでに競争力の前提条件になりつつあります。
JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー(JPモルガン)は、AIを用いた不正検知システムを強化し、年間数十億ドル規模の損失回避につなげています。
ゴールドマン・サックスでは株式市場の予測モデルにAIを組み込み、従来よりも精緻なリスク評価を可能にしました。
顧客対応でもチャットボットが標準化し、金融商品に関する問い合わせの7割をAIが処理しています。
ニューヨークの支店で働く中堅バンカーは「AIが導入されてから、夜遅くまで帳票をチェックする作業がなくなり、顧客との戦略的な相談に集中できるようになった」と話してくれました。
AIが労働時間を奪うのではなく、むしろ働き方を変えるきっかけとなっているのです。
一方、日本の大手銀行は導入が進みつつも、依然として慎重さが目立ちます。
三菱UFJフィナンシャル・グループは融資審査にAIを導入しましたが、実際には補助的な利用にとどまります。
三井住友銀行はコールセンターで音声認識AIを導入しましたが、対応領域は限定的です。
都内のメガバンクに勤務する行員は「AIは便利だが、誤判断の責任がどこにあるかが曖昧で怖い」と語りました。
こうした現場の声が、導入スピードの遅さを物語っています。
ここで問われる「すべきこと」は、リスク回避だけではなく、顧客価値の創出にAIを用いる姿勢です。
米国のフィンテック企業はAIを使って移民や信用履歴の薄い人々のスコアを算出し、新しい融資モデルを提供しています。
ニューヨークのスタートアップ創業者は「銀行に断られた人がAIで救われる瞬間を見た」と語りました。
日本でもこうした取り組みが広がれば、金融包摂の実現に近づくはずです。