米国と各国・地域の関税交渉が大詰めを迎えている。写真は日本の赤沢経済再生担当相(中央)とトランプ米大統領(左)(出所:スカビノ大統領次席補佐官のXより)
米国との相互関税の発動期限が8月1日に迫るなか、各国の交渉が大詰めを迎えている。日米間の合意は日本にとってポジティブサプライズだったが、米国の関税引き上げにより世界経済が減速することは確実な情勢で、需要懸念から原油価格は下落傾向が強まりそうだ。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り1バレル=65ドルから66ドルの間で推移している。原油需要に対する懸念が高まっているため、価格の上限は先週に比べて3ドルほど下落している。
まず原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。
欧州連合(EU)加盟国は7月18日、新たなロシア制裁案で合意した。
今回の合意は、ロシア産原油の輸入価格の上限を1バレル=60ドルの固定値から直近3カ月の市場平均価格より15%安い変動値に改めることが主な内容だ。EU委員会によれば、現状の上限価格は1バレル=47.6ドルとなる。上限価格は半年ごとに見直し、市場が大きく変動した場合でも対応できる仕組みを設けるとしている。
EUは上限価格規制の回避に利用される「影の船団」への締め付けも強化した。制裁対象として新たに105隻を追加し、合計444隻となった。
ウクライナでの侵攻を続けるロシアに対し断固たる姿勢が示された形だが、市場では「制裁による原油市場への影響は限られる」との観測が広がり、原油価格は上昇しなかった。
米国政府も先週、ロシアへの制裁を予告した。
トランプ氏が14日、ロシアがウクライナと50日以内に停戦交渉に合意しなければ、ロシア産原油を購入する第三国に100%の関税(2次関税)を課す方針を明らかにしたことを受けて、ロシア産原油の輸入国は対応に乗り出している。
インドのプーリー石油・天然ガス相は17日「原油の供給源の多様化を進めた結果、輸入国は以前の27カ国から40カ国以上に増加し、ロシアからの原油供給が二次制裁の影響を受けた場合でも国内需要を満たせる」と自信のほどを示した。
ロシアはインドにとって最大の輸入先であり、そのシェアは35%を占める。インドは米国の制裁を回避するため、イラク、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、米国などからの輸入を増やすとともに、ブラジルやカナダからの新規輸入も検討している。
インドと同様、ロシア産原油を大量に購入している中国も輸入先をサウジアラビアなどに切り替えつつあり、世界の原油の流れは既に変化しつつある。
市場の反応は薄いが、欧米の圧力強化はロシアにとって重荷となっている。