7月23日、日米関税交渉が合意しました。相互関税・自動車関税がともに15%で決着し、コメの輸入拡大や5500億ドル(約80兆円)にも上る対米投資の枠組みなどが発表されました。この交渉はどのように評価できるのか。交渉の舞台裏から今後の課題まで、経済産業省で対米通商交渉を担当した経験を持つ明星大学教授の細川昌彦氏に聞きました。
(取材日:2025年7月23日)
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日本の交渉は「75点」、石破総理の対応で減点
——今回の一連の関税交渉・合意内容は100点満点で何点だと評価しますか。
細川昌彦・明星大学教授(以下、敬称略):75点。赤澤経済再生担当相が、一筋縄ではいかない3人(ベッセント財務長官・グリアUSTR代表・ラトニック商務長官)を相手に我慢強く交渉し、サポートする官僚らもよく頑張ったと思います。
——では、25点の減点はなぜ?
細川:これは石破首相が原因です。これまで直接の首脳会談、3回の電話会談をしても、トランプ大統領は何度も自動車やコメなど同じことについて不満を表明していました。いったい、石破首相とトランプ大統領の交渉には何の意味があったのでしょうか。トランプ大統領に刺さる言葉をズバッと単純明快に言うのは役人ではなく、トップの仕事です。トランプ大統領が当初から不満を言っていたコメの部分などを解消しておけば、赤澤大臣らももっと交渉しやすかったと思います。
——今回の合意はトランプ氏に花を持たせる形になったのか、それとも花も身も全部持っていかれたのでしょうか。
細川:あまり卑下する必要はありませんし、ラッキーだった側面もあります。
今、トランプ氏は(少女売春などの罪で起訴され自殺した)ジェフリー・エプスタイン氏を巡るスキャンダルの問題で支持層に責め立てられたり、「TACO=Trump Always Chickens Out(トランプはいつもビビってやめる)」などと言われたり、大変な状況です。だからこそ、その逆境を脱するために早く成果が欲しかった面もあります。
トランプ氏は「日本は米国に5500億ドルの投資し、利益の90%を米国が受け取る」として「歴史的に最大の貿易合意」と成果を誇っています。要するに、支持者に向けてアピールする材料が欲しかったのです。
——合意内容の中でも特に「5500億ドルの投資」が効いたのでしょうか。
細川:大きいと思います。ただ、自動車、鉄鋼、半導体…と産業ごとにいくら投資を積み上げるかという具体的な話ではなく、政府系金融機関が大枠で投資を支援するというざっくりとした枠組みに過ぎません。でも、それでいいんです。今回の交渉ではトランプ氏の成果を上手く仕立てられるかがカギでした。