トランプ大統領は日本製鉄によるUSスチール買収計画巡り「提携(パートナーシップ)」を支持すると明らかにしました。その直前には石破総理と緊急電話会談を実施したほか、米国では日米関税交渉の3回目の閣僚会議も行われました。今、日米交渉は水面下で何が起きているのでしょうか。経済産業省(旧通商産業省)で対米通商交渉を務めた経験を持つ明星大学教授の細川昌彦氏に聞きました。
(取材日:2025年5月26日)
※詳しい内容は、JBpress公式YouTubeでご覧ください。
USスチール買収、水面下で対米投資交渉
——赤澤経済再生担当大臣による3回目の日米関税交渉に先立ち、5月23日にトランプ大統領から石破総理に電話会談が持ちかけられました。この電話の持つ意味は何だったのでしょうか。
細川昌彦・明星大学教授(以下、敬称略):電話会談後の石破総理から「お互いに努力してウィンウィンの関係を築いていくことは会談全般で確認されたと考えている」などの説明がありました。ただ石破総理の発言だけでは、トランプ氏がわざわざ緊急で電話をかけてくる理由になりません。
結局、トランプ氏はその翌日、SNSで日鉄によるUSスチール買収について提携を承認する発言をしました。この内容を発信することを、石破総理に事前に連絡をしてきたと考えるのが自然でしょう。首相動静を見ても、電話前に経済産業省製造産業局長が官邸に来ており、日鉄・USスチール買収案件の話について動いていたのだと推測できます。
——トランプ氏は日鉄によるUSスチール買収について一貫して反対してきたはずです。この方針転換をどう見ますか。
細川:トランプ大統領らしいやり方でしょう。交渉に持ち込み、実利を得て、妥結し自分の成果をアピールするというパターンです。
私はトランプ大統領が就任する前から、日鉄のUSスチール買収問題については、バイデン政権がNOと言ってもトランプ政権になれば一縷(いちる)の望みが出てくると申し上げてきました。トランプ氏にとっては、対米投資をさせ、米国での生産と雇用を増やすことが世論にアピールする戦利品となるからです。
最終的な合意内容はまだわかりませんが、トランプ氏のSNSでの発言前にロイター通信が、トランプ政権が買収を承認した場合、日鉄が140億ドル(2兆円)規模の投資をすると報じました。水面下で対米投資を巡る交渉がされていたと推測されます。