自動車関税「15%」を巡る舞台裏、今後の価格戦略は?

細川:もう一つ大事なのは自動車関税です。これまで2.5%だったのが15%になりましたが、為替環境を考えると、1ドル120円といったと時期と比べて円安に振れているいまの状況では、十分に関税分のコストを吸収可能とも考えられます。

 さらに、一部の識者が「低関税で輸出できる数量枠を設けたらいい」というような無神経な発言をしていましたが、これは絶対に認められない一線でした。数量枠を入れられたら、各メーカーに台数を割り振ることになり、完全な管理貿易になってしまいます。

 そうした数量枠という誤った合意の道を取らなかった点も評価できます。

——日本企業の今後の舵取りは。

細川:5500億ドルの対米投資が評価されたことが合意できた大きな要因であることを踏まえると、今後の対米投資の動向が重要になってくると思います。15%の関税を前提とした生産拠点などの投資戦略、そして米国市場での価格戦略をどう練り上げていくか、各企業の経営判断が問われてきます。米国での価格戦略については、おそらく関税分を踏まえて値上げしていく企業が増えてくるでしょう。

 企業にとっては、関税交渉の行方が見えないという不確実性がリスクでした。しかし、今回の合意で関税率が固まって不確実性が減ったので、それを踏まえて経営判断が下せるようになったことは朗報です。

 今後は、米国にどんどん投資をしていけば、日本国内で産業の空洞化が起こりかねないという懸念もあります。そのような状況にならないよう、経済安全保障の観点も踏まえながら、日本と米国がきちんと棲み分けできるような産業戦略を立てていく必要があるでしょう。