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(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)

 いやいや、ついに騙されてしまった。

 スニーカーのネット通販である。

 定価3万2800円のスニーカーが約5900円。2足目は約1900円。合計で約8000円。一見、どうにもインチキくさいのである。

 が、敵は畳みかけてくる。

 東京大学の何々学部推薦(?)で、イタリアの革を使い、10万回の使用にも耐え、ヒールは5センチの厚底で、どれだけ歩いても足の痛みが発生しない、とかなんとかの謳い文句(細かい部分で、少し表現がちがうかもしれない)。

 こんな広告が、わたしが見るYouTubeの番組に頻繁に出てきたのである。

 お、こういう形の靴は好きだなあ、と思いはしたが、何回もやりすごした。

 1カ月くらいスルーしていたか。が、あまりにも頻繁である。その都度、広告の靴に見入ってしまう。

 東京大学もイタリアの革もその他の売り文句も信じたわけではないが、そのデザイン自体が捨てがたい。作りも堅牢に見える。

まさか詐欺ではあるまい(希望的観測)

 何十回目かに、買うかと、決めた。

 ちょうどいま履いているスニーカーのインソールが剥がれかかっていることだし、と買うための理由づけもしたりして。

 しかしそんなことより、ほんとうをいえば、靴のデザインにいかれてしまったのである。

 わたしの好みにドンピシャなのである。

 それでサイズと色、2足8000円を決めた。

 まさか詐欺ではあるまい、と思ったが、この「まさか」の根拠はなにもない。希望的観測である。

 8000円は痛いが、騙されてもまあ我慢できるか、半分騙されても、自分がまぬけだからしょうがない、という大げさな決意のもとの決断であった。