中国のGDP速報値などを発表する国家統計局の記者会見=7月15日(写真:共同通信社)
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「上半期(1月~6月)のGDP成長率は5.3%だった。うち第1四半期(1~3月)は5.4%、第2四半期(4~6月)は5.2%で、上半期の伸びは昨年同期比と比べて、0.3ポイント上昇した……」

 7月15日午前10時(中国時間)、記者会見に臨んだ国家統計局の盛来運副局長が、壇上で胸を張ってこう述べた時、私は何だか「虚構の世界」を見ているような気がしてきた。日本にも戦前、「大本営発表」というものがあったが、中国社会の現実とあまりに乖離(かいり)しているからだ。

 週末に、日本を訪問中の中国の著名な経済学者と会う機会があったので、かなりあけすけに聞いてみた。すると先方も、「絶対に匿名」を条件に、かなりあけすけに答えてくれた。以下は、一問一答である。

本当の成長率は?

――中国の上半期のGDP成長率が5.3%との発表があったが、これは信じてよいデータなのか?

「おそらく14億人の中国人の中で、国家統計局のデータを額面通りに受け取っている人は皆無ではないか。私も自分の学生から質問された時は、『国家統計局はそう発表している』としか答えようがない。まだいまの職を解かれたくないので」

――では本当のところは、どのくらい成長しているのか?

「高善文(著名な経済学者で元中国国投証券チーフエコノミスト)が昨年末に、『中国の主要経済統計は3%上乗せしている』と発言して、大問題になったろう。だが実際、高善文の言う通りだ。

 だから、5.3%と言うなら2.3%前後だろう。輸入が3.9%(ドル換算)も減っているのだから、そのくらいではないか。

 われわれは国家統計局の発表を『数据政治化』(データの政治化)と呼んでいる。いまから10年近く前に、経済政策を巡る論争が起こった時、(経済学者出身の)劉鶴副首相が名言を吐いた。『わが国には純粋な経済学など存在しない。あるのは政治経済学だけだ』。そのことは、いまも変わっていない」

――国家統計局の発表によれば、中国の上半期の全国住民消費価格(CPI)の伸び率は-0.1%。6月の全国工業生産者工場出荷価格(PPI)の伸び率は-3.6%。これらは、デフレ社会の到来を意味している。日本もバブル経済崩壊後の「失われた20年」と呼ばれたデフレの時代、0%~2%の成長をしていた。それを考えるといまの中国も、2%強の成長というのはつじつまが合う。

「だが当時の日本は、『5%成長している』などと、虚勢を張ってはいなかっただろう。

 いまの中国は、悪い経済を隠そうとする。それでピカピカのデータを掲げるから、政府の政策も建前上、5%成長に基づいたものになる。すると誤った政策を遂行してしまい、さらに経済がおかしなことになる。結局、割を食うのは14億国民ということになるのだ。このまま経済悪化が続くと、やがて政府の手に負えなくなるだろう」