「追い詰められているのはむしろ米国だ」と唐鎌氏は語る。写真はトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)
(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)
追い込まれているのは米国ではないか?
前回のコラムでは、日本側の視点から25%の相互関税に対する所感を述べた。主に円安で関税措置の激変緩和を図ることは可能という趣旨を指摘したが、本当にそうするかどうかは政府・日銀の思惑次第ではあるし、世論にも相当影響される話だろう。
それにしても、日本国内の報道だけを見ていると、あたかも日本が追い込まれているように見えるが、本当にそうなのだろうか。
約60の主要貿易相手国を対象として4月2日に発表された相互関税は、早々にその執行が90日間延期され、その間にトランプ大統領が得意とする「ディール」を重ねる展開が期待された。日本が一番手として選ばれたのは「実績を挙げやすい大国」として適任だったからという見方もある。
しかし、本稿執筆時点で最終的な合意が発表されているのは英国とベトナムの2カ国だけだ。強いて言えば、一部の関税撤廃を含む停戦的な合意に至っている中国を入れても3カ国だけである。
法外な税率をふっかけ、期限を区切れば、多くの国々は一方的であっても要求を飲むという目算があったはずである。「90日間も猶予を与えて満足行くディールは3カ国だけ」という状況を踏まえると、追い込まれているのはむしろ米国ではないだろうか。
もちろん、前回のコラムでも確認したように、日本にとって25%関税は自動車産業を中心に、多くの輸出企業を採算割れに追い込む可能性がある。ただそれ以上に、振り上げた拳を下ろす場所を見失ったトランプ政権は事態収拾の糸口をつかめなくなっている印象を受ける。
トランプ大統領は「8月1日以降の延長はない」というが、それは7月9日についても言われていた話であり、もはやそれを信じる市場参加者の方がマイノリティだ。それは堅調な株式市場が雄弁に物語っている。文字通り、「TACO(Trump Always Chickens Out:トランプ大統領はいつもビビッて退く)」トレードが展開されている。