節約一辺倒のデフレマインドは変えられるのか?(写真:monterosportsjp/イメージマート)
目次

 物価高にもかかわらず消費が伸びず、景気が好転しない。そんな奇妙なインフレを、永濱利廣氏(第一生命経済研究所 首席エコノミスト)は「新型インフレ」と呼ぶ。その背景にあるのは、日本人の心に深く根を張った節約志向であると永濱氏は言う。

 いつから日本人はお金を使わなくなったのか、それに対する政策は十分か、財政への過度な悲観が生む日本経済の閉塞をどう打破すべきか。『新型インフレ 日本経済を蝕む「デフレ後遺症」』を上梓した永濱氏に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──現在、日本で起きているインフレは、過去のインフレとどのような違いがあるのでしょうか。

永濱利廣氏(以下、永濱):通常のインフレでは、物価上昇に伴って消費者意識が「これから値上がりするのだから今のうちに買ってしまおう」というインフレ的なものになり、消費行動が活発化します。

 ところが、現在の日本では20年以上にわたるデフレの影響で、物価が上がっているにもかかわらず、人々のデフレマインドが残ったままです。このような状況を、私は「新型インフレ」と呼んでいます。

──デフレマインドが残っていることで、どのような弊害が生じるのでしょうか。

永濱:本来であれば、インフレが起これば消費が刺激され、景気が拡大し、賃金も上がっていきます。たとえインフレのきっかけがコストプッシュ(※1)であったとしても、需要が追いついてくればデマンドプル(※2)型インフレの要素も現れ、経済全体が回り出します。

※1:企業の生産コスト(原材料費、人件費、エネルギー価格など)の上昇が原因で、モノやサービスの価格(物価)が上がる現象。
※2:需要(デマンド)の増加が原因で物価が上昇する現象。

 けれども、消費者がデフレマインドのままでは、物価が上がっても人々の財布のひもは固いままで、消費が勢いづくことはありません。結果として、企業が値上げする割に、賃金が上がらず、家計の購買力はむしろ低下していくのです。

──書籍では、日本人は不安にとらわれてお金を使えない状態にあるとありました。

永濱:今の日本では「将来のためにお金を使わずに取っておく」という意識が非常に強くなっています。日本人に昔からそのような傾向があったかと言うと、全くそんなことはありません。

 2024年は円安が進み、1ドル150円を超えました。その際、あるテレビ番組が過去に同様の為替水準だった時の日本の様子を振り返ろうということでバブル絶頂期の日本の映像を流していました。

 その中で、若い女性が「お金なんて持っていても紙切れ。使わなきゃ意味がない」と話していたのが印象的でした。非常に本質を突いていると思います。

 お金は使って初めて経済を動かす力になります。ところが、過度な将来不安が広がることで、節約志向が蔓延し、経済が停滞する。景気が悪くなれば所得も減り、国家財政も苦しくなる。こうして経済全体が悪循環に陥ってしまうのです。

──具体的に、日本人はどのような不安を抱えているのですか。