自らが受けた性暴力を語り続けた佐藤ハルエさん©テレビ朝日
史実を「なかったことにはできない」
そのうちの1人、佐藤ハルエさんは黒川を離れ、当時、未開の地だった「ひるがの」(岐阜県郡上市)に移住。この地をゼロから開拓し、借金を背負って畜産を始めた。同じく、安江玲子さんも故郷を捨て、東京へと移り住んだ。
そして、黒川開拓団の人たちは、15人の女性の犠牲のもとに生き延びたという事実に封印をし、彼女たちの存在は長年にわたってタブーとなったのだ。
しかし2013年、前出のハルエさんと、彼女たちの姉のような存在で、前述の、満州で亡くなった4人を悼む「乙女の碑」の建立(1982年)を主導した安江善子さんが、「性接待」の事実を公の場で告白。これを機に、「戦時下の性暴力」の史実は地元紙を中心にメディアでも報じられ、広く知られるようになった。
また、2人の告白を重く受け止めた黒川開拓団遺族会は2018年、前述の「乙女の碑」建立時には作られなかった碑文を立てた。除幕式では、遺族の一人で、遺族会会長を務める藤井宏之さんが、80年前の彼女たちの犠牲に深い感謝の気持ちを表すと同時に、引き揚げ後に受けた誹謗中傷で、長年にわたって辛い思いをさせてきたことを謝罪した——。
「そういう歴史があったんだよという事実を伝えていかなきゃならんでしょう……生きとる者の大きな使命じゃないですか」と、80年前に自らが受けた性暴力の事実を伝え続けるハルエさん。
「このことをうやむやにして、“また”なかったことにすることはできない。絶対に」と、ハルエさんと善子さんの告白を受け止め、彼女らを支え続ける、黒川の女性たち。
そして、自らの父親が、彼女たちがソ連兵の「性接待」を強いられた際の「呼び出し係」だったという事実から目を背けることなく、謝罪の思いを碑文に刻むことに苦心する遺族会会長……。映画では、黒川の人たちが、それぞれの立場で、過去に向き合おうとする姿が映し出される。
監督は、横浜市へのカジノ誘致を阻止した港運協会会長、藤木幸夫氏の戦いを追った映画『ハマのドン』(2023年公開)の監督として知られるテレビ朝日の松原文枝氏だ。松原監督が今作品についての思いを語る。