拡張型予算で景気回復に弾みはつくか?
問題は、こうした拡張型予算の実施がドイツ景気の回復を促すかどうかだ。結論から述べると、景気浮揚効果は限定的だろう。
拡張型予算は需要の刺激につながるが、一方でドイツ経済はヒト・モノ・カネといった生産要素のうち、特にヒトの面でボトルネックを抱える。ヒトの面を中心に供給制約が強いため、需要増に応えられない可能性が高い。
ドイツはメルケル政権の後期に当たる2010年代から分配政策を強化し、労働者保護の姿勢を強め、法定労働時間を引き下げてきた。さらに、後任のショルツ前政権はコロナ対応の観点もあって、最低賃金を大幅に引き上げるなど分配政策を一段と強化した。一方で、労働界は労働界で権利意識を強め、週休3日制の導入を要求している。
ドイツの産業構造が高付加価値の製造業に支えられていることから、計算上、ドイツ経済の生産性は高い。しかし実態としてドイツ国民は働かなくなっており、それを経済界が問題視して久しい。同時に、ドイツでは移民排斥の機運が、特に旧東ドイツ地域を中心に高まっている。メルツ現政権も、移民に対しては厳格な姿勢を取っている。
ドイツ国民の勤労意欲が欠けていることに加えて、移民労働力の利用にも消極的であるため、人手不足というボトルネックはなかなか解消しない。そうした環境の下で需要を刺激しても、供給がそれに応えられないのだから、景気の回復にも自ずと制約が課される。むしろ、人手不足の中で賃金だけがいたずらに増加し、それが物価をさらに上昇させる恐れがある。