AI技術がオープン化されるメリット、デメリット

長野:分散型AIでは、複数のデバイスやサーバーが各自で学習や推論をしています。この方法には、多くのメリットがあります。

 分散型AIの場合、各企業・各組織が自社サーバーや自社デバイスの上で独自データを利用し、モデルをカスタマイズできるため、情報が外部に出ず、プライバシーや機密情報を守りやすくなります。また、各分野に特化したモデルをユーザーがつくることができるため、ニッチな用途でも高精度なモデルをつくることができます。

 一方、ChatGPTをはじめとする従来の生成AIは集中型AIと呼ばれるもので、単一または少数の巨大サーバー群(クラウド)にデータを集め、そこで学習・推論をしています。

 集中型AIのメリットは、大規模なデータを1カ所に集約できるため、高精度なモデルを構築できる点や、網羅性が高いため広範囲な用途に対応可能な点が挙げられます。デメリットとしては、膨大な計算リソースに応じた運用コストが必要となること、またデータ管理の観点でセキュリティリスクが高まりやすいことなどが挙げられます。

──OpenAI社がDeepSeek社の影響を受け、技術のオープン化の流れに舵を切ったとのことでしたが、他社もこの流れに追随していくのでしょうか。

長野:私は今後、その流れが加速していくと見ています。

 かつて検索エンジン分野において、GoogleやMicrosoftが一般に利用できるクラウドのインフラを提供したように、AIもオープンなかたちで誰もが活用できる環境が整備されていくでしょう。それぞれのユーザーや企業が独自の使い方を工夫することで、さらに市場は広がっていくと考えています。

──AI技術のオープン化のメリット、デメリットについて教えてください。

長野:オープン化された基盤技術を他分野の専門家たちが応用し、新たな技術開発に活用できる環境が整います。AIモデル提供側の立場で言うと、その結果、技術の普及と同時に基盤技術のシェアの拡大が期待できます。

 DeepSeek社では、より高度な基盤技術が必要となった場合は有料で技術を公開し、マネタイズさせていると思われます。

 また、その他のメリットとして、これまで一部の専門家や技術者でなければ利用できなかったAI技術が、一般にも広く普及することが挙げられます。

 スマートフォンのように、誰もがAIを手元に持ち、パーソナライズされたサービスを享受できるようになるでしょう。その結果、仕事や日常生活の効率化が一層進んでいくことが期待できます。

 懸念すべきは、情報管理の問題です。1人1台、AIを生活や仕事のお供にすることで、AIが搭載されたデバイスを通じて位置情報やクレジットカード情報などの個人情報が、サービス提供者側に収集されるリスクが高まります。今後は、自身の情報の取り扱いに、さらに注意が必要となるでしょう。