4.プーチン氏の怒りが心頭に発した理由 

 プーチン氏は、自国軍の大型爆撃機が豆粒ほどの小型のドローンに攻撃され一瞬にして燃える映像を見て、怒りが爆発したに違いない。

 攻撃を受け、対応を述べるプーチン氏の顔は、怒りで鬼のような形相だった。 激しく怒る理由は、以下の理由が重なったためであろう。 

(1)ウクライナの頭脳戦略への敗北に怒る 

 ウクライナは、ロシア国内に大量の小型FPVドローンを持ち込み、飛行場の近くから短距離飛行を行い、大量の爆撃機を同時に攻撃するという想像もしなかった作戦を実行し成功させた。

 加えて、ウクライナの実行者は誰も捕まることはなかった。 

 この作戦成功は、頭脳明晰なウクライナ、対照的に愚かなロシアというイメージを世界に一瞬にして広めた。 

 ウクライナが公表する映像には、ドローン対策として機体にタイヤを乗せたなんとも滑稽な大型爆撃機等がはっきり映っている。

 つまり、ロシアには近代戦としての防空作戦も、電子戦的にも何もしていなかったという愚かさを示してしまった。

 事実、多くの爆撃機は破壊されて炎上した。 

 ロシアがウクライナよりも戦略・戦術に劣るという事象が広まることは、ロシアの独裁者、代表としては許しがたかったはずだ。

 つまり、プーチン氏のプライドがズタズタに引き裂かれたのである。 

(2)小型ドローンに約50メートルの大型爆撃機が破壊された 

 ロシア爆撃機の全長は、Tu-95ベアでは46メートル、Tu-160ブラックジャックでは54メートルある。約50メートルの大きさだ。 

 縦横50センチほどの小型ドローン1機だけで、その100倍の大きさの爆撃機が燃やされた。

 実は、爆撃機の翼には弱点がある。

 翼は、蜂の巣の形をしたハニカム構造であり、そこに、大量の燃料が搭載されている。

 そのため、上部から翼に攻撃を受ければ、小さな爆発であっても、瞬時に燃え広がるのである。 

 ロシアの爆撃機はウクライナの防空ミサイルの射程外からミサイルを発射するために空中で破壊されることがなく、またその駐機基地がウクライナの無人機の飛行距離の外に移動したために、安全だと思っていた。

 稀に、無人機が飛行してきても、機体の上にタイヤを乗せていれば、阻止できるか大破を免れるとみられていた。 

 だが、爆撃機の大きさからしてみれば、豆粒ほどのドローンに襲撃され、爆撃機最大の弱点を突かれ、大破してしまった。

 爆撃機、それも数機が同時に炎上する映像は、これまで見たことがなく、まるで映画のようだった。 

(3)ソ連軍解体時に残した爆撃機が破壊されたこと 

 旧ソ連軍は、ミハイル・ゴルバチョフ書記長のペレストロイカ政策や旧ソ連邦の崩壊により、多くの兵器が削減された。

 爆撃機は切り刻まれて破壊され、その残骸が原野に無惨に捨てられた。

 その結果、現在は旧ソ連全盛期の3分の1にまでの数量にまで減少した。そして、その数を現在までやっと保ってきた。 

 ICBM(大陸間弾道ミサイル)、ミサイル原潜、戦略爆撃機は、軍事大国ロシアのシンボルでもあった。

 ソ連時代から解体されずに残された戦略爆撃機が、ウクライナの小型ドローンに、一瞬にして約34%も破壊されてしまった。 

 プーチン氏は、ウクライナには絶対に手出しができないと思っていた兵器が簡単に破壊され、その燃える様子を見て、大きなショックを受けたに違いない。