日本は年金制度改革で最大で年2兆円規模の国費が追加で必要
同時に平均寿命が延び、年金受給期間も長くなる。健康寿命も延び、お年寄りは人生の最後の3分の1を趣味や家族との時間に費やせる。お金を使う機会も増え、年金生活者需要で経済も刺激されるが、それを支える若者世代はたまったものではない。
ビスマルクとベヴァリッジの混合型の日本では5月30日、年金制度改革法案が衆院を通過し、今国会で成立する見通しとなった。
自民・公明・立憲民主3党は就職氷河期の「失われた世代」が低年金に陥るのを防ぐため国民年金底上げの将来的な実施を付則に加えたが、国民年金は2分の1を国費で賄うため、最大で年2兆円規模の国費が追加で必要になるという。
米国は見て見ぬふりをしながら崖っぷちへと突進している
米紙ウォールストリート・ジャーナルの社説(5月26日付)は「デンマークの新たな定年は70歳」と題して「負担の大きい社会保障制度の改革を拒否する臆病な米国の政治家にとってデンマーク人はお手本になる」と指摘している。
政治におけるシルバーパワーを無視できないのはいずこも同じである。
「リベラルは長年、米国は欧州のようになるべきだと主張してきた。彼らがデンマークのことを指しているのならワシントンは社会保障改革について何かを学ぶべきだ。注目すべきは今回デンマークの年金受給年齢引き上げが中道左派政権によって議会で可決された点だ」(WSJ紙)
「政治的に容易な解決策はないが、受給年齢を据え置くのは無謀という点で超党派の合意が得られた。米国の社会保障制度は2033年に破綻すると予測され、退職者への給付金は21%減額される。しかし米国は見て見ぬふりをしながら崖っぷちへと突進している」と警告している。
【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。